バッドタイミングにもほどがある。どれだけの偶然が重なったらここで父親と出くわす事になってしまうのだろうか。
「何だそれ、つか、お前誰だよ」
わざとしらばっくれたフリをし、さっさと帰ろうと背を向ける。そんな俺の手を掴み、奴は「待ってくれ」と焦った声を出す。
「じゃあ、その青い目は?綺麗な茶髪は?目の下のホクロは?まるであの子のままじゃないか」
「うっせぇな。お前なんか見たことすらねぇよ。勘違いで時間削ってる場合じゃねぇの」
そう吐き捨てるように言い、再び背を向ける。今更なんと優しい言葉をかけられても、もう戻ろうという気は無かった。
―どっちが先に・・・捨てたと思ってんだよ。
無理に父親の手を振り払い、自分の中でも全速力を出して走り去る。このスピードでは、普通の人間ならまず追いつけないだろう。
「父さん、早く早く!」
スピードを落とすと、途中でそんな声が聞こえてきた。
学校の前で、父親と見られる綺麗な顔立ちの男と、同じくらいに顔の綺麗な、ポニーテールの少女。美男美女家族とは思うが、まったく顔は似ていない。父親も、30代にも40代にも見えない、どちらかと言うと24から26,7歳に見えた。
「待ってくれ」
はしゃぐ娘を追いかける父親らしき男は、頭を掻きながら小走りして、ある名前を呼ぶ。
「天使ー。人ごみの中で走るなよ」
高校生に見える娘にこの言葉をかけるほど、あの父親は心配性らしい。俺の父親とは、大違いだ。
―天使って、変な名前だな。


