すこぶる怖いものを見たわけでも、恐怖体験のあるものを見たわけでもない。ただジッとしているのに寒気がした。

恐る恐る後ろを見てみるが、何も無いし誰もいない。
ホッとして前を見ると、キャプテンは腰を抜かしかけた。人だ。細身の男が立っている。

一瞬、上手く人を騙そうと考える人に化けた狐に見えた。つい「狐は山に帰ったほうが良いよ」と言いかける。

しかし、それが人だと分かるのは遅くなかった。ハッとして「誰ですか?」と言いかけた口をつぐむ。

この男、知ってる。キャプテンにはハッキリと見覚えがあった。
ケイラに似た口調の、あの「ジュマのバイトの先輩」という口の悪い男だ。
この時初めて、キャプテンは「ヤバイ」と心から思う。獲物を狙う獣のような目は、もう「道を教えてくれませんか?」という目ではなかった。

キャプテンはプラスに考えてどうか道を尋ねて来ますように、と祈る。しかし、男・・・いや、小久保は予想通りの言葉を口にする。

「お前、キリダ ツトムか?」

呼吸が止まりかけた。冷や汗が流れ、何とか息を吸おうと安定させる。キリダ ツトム。キャプテンの本名だ。

「『人違いですか?』って顔じゃねぇな。ちょっと俺の行く所に」

小久保が全部言い終わる前に、キャプテンは小久保を全体重をかけて突き飛ばし、そのまま自転車にまたがって公園から去った。