私に兄なんていないんでしょ?

そう聞こうと思ったと同時に、母は、何やら唾を飲み込む音がしてから続ける。

「檜 天李。あなたが生まれる3年前、別の男の人との間に出来た子供なの」
「腹違いの兄ってこと?」
「・・・そう」
「その人、どこにいるの?」

何となく知りたいと言う好奇心で聞いたが、聞こえたのは涙混じりの声、悲しさと後悔を抑えたような声であった。

「もう・・・死んでるかもしれない」
「どういうこと?」
「・・・天李が生まれて3年目の1月に、あの人が死んで・・・別の人との間であなたがおなかに出来た頃、天李を見てると、彼を忘れられなくなるから・・・日本に旅行に行った時・・・」

大体予想がついた。予想といっても、嫌なほうの予想だ。
母の言葉は、私の予想したとおりの言葉を口にする。

「東京に・・・捨ててきた・・・」

やっぱり。「この人」のことだからそうだと思ったのよ。
私は、がっかりもしなければ悲しみもしない。独りぼっちだったからか、悲しむ気持ちも既に失っていた。