トリップ


「住めば都、か。俺も初めて日本に来た時はそうだった。」
「え?先輩帰国子女?何人?」
「何人かは言えないが、外国出身だ。」
「〜日系のブラジル人?」
「違う。というか、何でブラジル……」
「先輩、サッカーしとったから。中国人の男の子と。」
「あれか、ボールを蹴るくらい、誰だって出来るさ。」

そう言うと、リクは声のトーンを低くし、真面目に話し出した。

「もう今日で、君との関わりは終わりだ。」

頭に小さな衝撃が走った。エリカは思わず耳を疑う。

「俺の君に関する守りの期間は今日までなんだ。もう明日からは、俺は君に用はないし、君も俺に用はない。」
「……ああ」

エリカが何か言おうとしたが、言葉がそれきりしか出ない。
すると、急にリクの手が、まるでエリカを慰めるかのように伸びて来た。そのまま指を5本指の間に全て通し、指を絡ませる。大きく、スラリとした綺麗な、そして殺し屋といえど人の命を奪った手の指が、エリカの指の間を通り抜ける。
リクの手が、そのままエリカの手を優しく握ると、彼女はどういう対応をしたらいいのか分からなくなった。

「あの…どうして……」
「最後だし、また次の仕事もあるから、たぶん、もう会えない事を考えてだ。」
「……他の人にもそうしとるんですか?」
「いや、今回がはじめてだ。俺がここまで馴れた一般人は君が最初なんだ。褒めてやってるようなものかな。」
「…やっぱり俺様かっ…!」

エリカがそう言うと、リクは苦笑しながら無造作に頭を掻いた。

「最近流行りだな。俺様とか王子様だとか。」
「そりゃあ理想やもん。」
「はっ…日本に王子様なんていないのに、皆それを追い求めてるんだな」
「いいやん。現に先輩だってそれでモテるんやから。」
「…?好かれてたのか?俺は。」
「うん。顔はいいしスポーツも勉強も出来るし、なんて言うんやろ、全てにおいて完璧というか」
「…それが、人気の理由?」
「それ以外に無いし。他の子の目線で考えたら」