トリップ


「ガキのくせにやるじゃねぇか」

そう言いながらもう一人の男が歩いて来る。
遠くから見たらヤクザだが、よく見ればホストにも見えない事はない。

男は早速ナイフを振って来た。当然それを避けたが、どうやら相手の罠に掛かったらしく、男が投げてきた拳大の石に当たりそうになる。
左の手の甲で叩いて違う方向へ流した。しかし、かなり固く重い石だったため、よく見ると手の甲は赤く腫れている。
これで今日一日は左手は使い物になりそうにない。
相手は傷に気を配っている余裕を与えないほど強い。だが、リクに恐怖はなく、むしろ戦うにつれて落ち着きが増した。
呼吸を整え、ナイフを男に突き出す。ナイフは交わされて相手の刃先が右腕を軽く切る。そのまま男の腕を掴み、先程首の横で交わされたナイフを引いた。
ナイフが動脈を切り、リクは男の血がかからないように後にのいた。

そして、リクは最後に美喜に目をやる。美喜の持っていた写真には優しく笑うエリカの横顔が写っていた。
驚いて腰を抜かしている美喜から写真を盗ると、変な事に巻き込まれないようにしまった。美喜の小さな鞄からは、今まで殺されてきた生徒の写真がいくつかはみ出ている。

-今までの事件はコイツが同一犯だったか。

リクは鼻を鳴らすと、美喜に詰め寄る。

「…やっぱり、先輩が守り屋だったんだ。」
「ああ。」
「私の事、殺す?」
「…さぁな」

美喜は平常を保っているが、怯えた表情が丸分かりだった。リクは素早く後ろに回り、美喜の首筋に針を打つ。この針には記憶を破壊させるという妙な物質が入っており、それを美喜に注射したのだ。美喜はそのまま右に倒れ込む。じきに目が覚めるだろうが、その時にはもう何も思い出せなくなっている。

切られた右腕に止血用のシップを張ると、何事も無かった様に倉庫を出ようとした。