「分かってるわね。この仕事が出来なきゃ、あなたの居場所なんて無いんだから」

こんな事を言われて怒らない彼もおかしいだろう、とエリカは思う。
しばらく壁に寄り掛かっていると、ドアを開けてリクが出て来た。

「……何してる。」
「あ、ちょっと会話が気になって…。また怒られとるんじゃないかって……」
「余計なお世話」

注意されるような口調で言われ、エリカは凹んだように肩を落とした。

(さらっと酷い事言うし。)

ムッとした顔をすると、それがリクに伝わったらしく、首を傾げた。

「何?」
「別に・・・」
「嘘つくな。文句言いたいのが見え見えだ。」
(~俺様!)

何も言い返せないエリカは唇を噛む。
いったん下を向くと、エリカは何も言わずにその場を去る。
リクと話せたのは嬉しいし、彼が何となく楽しそうにしてくれているのは嬉しかったが、こんな会話では面白くない。それよりは、さっさと買い物を終わらせて楽にしたほうがよかった。


デパートに入ると、冷たい空気が肌を舐めた。心地良い感触が全身に伝わっていく。
2階にある服屋に用事があったので、エスカレーターで上る。しかし、服屋の周りにはヤクザ風の男達が群がり、なかなか入る気持ちが起こらない。デパートが閉まっていたと嘘をついて帰ろうか、と考えるが、先程入口で見た看板にはデパートの日程が書かれている。これではネットで調べればいつが休みなどということはすぐにばれる。

しかし、無茶してあの中を通過したら絡まれ兼ねない。

−どうしよ…。

一人で行くくらいなら、誰かについて来て貰えばよかった。そう後悔していると、耳元で聞き慣れた声が聞こえた。

「行かないのか?」

ハッとして後ろを向くと、黒いワイシャツの襟から鎖骨が見えた。

−うわー…エロいなぁ。

一体どんなチャラ男だろう?恐る恐る見上げて見ると、意外にもその正体はリク。不機嫌そうにこちらを見下ろしていた。