ヤスは濁った漆黒の瞳を鋭く光らせ、黙って私を見ている。



そして、灰皿に煙草を押し付けたかと思うと立ち上がり、高い鼻をずい、と寄せた。



「匂いがする。」



「…………な、なに、の?」



ヤスに黙って過去を探ろうとしているから、ばれたらヤバいし、心臓が破裂しそう。



「アナスイの匂いだ。うちの社長の匂い。」



「電車に乗ったからじゃない?隣の女の人の匂いでも付いたんでしょ。私が香水なんか持ってるわけないし。」



あくまで平然を装う。ヤスには見透かされてしまいそうだけど。