昼休憩をもらったあたしは、店から出て、階段を駆け下りる。
地面を踏みしめると、きょろきょろと周りを見渡して、ゆっくりと深呼吸した。

やたら嬉しかった。
気持ちは外食モード。
やっぱり、今日の行動は正解かもしれない、とあたしは思った。
ここ何日か、心労(笑…い事ではないか)の為か、食欲の無かった心も身体も素直になっていた。
お腹が、虎の雄たけびのような唸りをあげている。
あたしに似て、現金なヤツだった。いや、あたしに間違いないのだが。

あたしは、右手でお腹をさすった。よしよし、ちょっと待っててね。


就職して、ここ1週間のどんよりとしたあたしの心。
ネイルの学校で習ったことはなんだったんだろうか、ぐらいの勢いだった。
例えれば、先輩達は、あたしから冥王星くらい離れた先にいて、店長はというと、まるでポーラスターだった。

この世の中で、ネイリストという仕事があたしに一番向いてないんじゃないか、などと思ってしまうくらいの差が、あたしの前に横たわっていた。

そんな、自分の後ろ向きな心を、ちゃんと、空が視界に入るくらいに、前に向けたかった。
遥か先をいく、この人達も人間。あたしもかろうじて人間。
そうやって自分を毎日元気付けていた。
30分にいっぺんはそうやって自分をひっぱりあげていた。
ええい、世話のやけるあたしだ。

でも、今は気分上々だった。
いい気分転換になりそうだ。

人に指をさされないように、にやけそうになる顔を右手でほぐしつつ、あたしは何を食べようか考えながら歩きだした。