視線を振り切って恐る恐る教室を覗き込んでみる。


教室には見知らぬ新しいクラスメートや愛しのジミニャーノ達。

比較的、活発的な生徒が揃っているようだ。


部活で活躍している生徒達がちらほら見受けられている。


今のところ自由席みたいで、皆、適当な場所を陣取っている。


ただし、教室窓側席の最後尾周辺がガラガラ。

荷物を置いてある形跡があるんだけど、誰も席に座ろうとしない。


トイレに行ったり、友達のところに行ったりしている人も勿論いる。


でも大半は距離を置きたいんだ。



何故か?



答えは窓側最後尾の席に不良が陣取っているからだよ。

見慣れたキンパ赤メッシュに俺は膝から崩れ、戸枠にしがみつく。


嘘だろおい。

なーんでお前が此処にいるんだよ。クラスを間違えてね?


せーっかく今年はヨウ達に流されないよう“マイペース”に過ごすと決めているのに……お前が同じクラスメートになっちまったら、今年もサボりにサボりまくる付き合いしないといけないじゃんかよ。


クラスが違った時よりもサボリの頻度が高くなりそうで怖い。

退屈そうに欠伸を噛み締めて、窓を眺めている不良に溜息。三度ほど溜息。


諦めて笑声を漏らした。


あいつの舎弟である限り、俺はヨウに振り回されることは確定なんだな。

いいよ、俺、お前の思い付き行動に幾度も振り回されてきたんだ。今更だろ。


それに俺、お前のことは怖くない。


不良は怖いけれど、ヨウのことは怖くない。

学校一恐れられている不良だとしても、さ。


抜き足差し足忍び足で舎兄に近付き、最後尾一つ前の席に腰掛ける。


ぼやっとしている舎兄は、頬杖ついてまだ窓の外を眺めていた。


空でも眺めているのか?

それとも眠気と闘い中?


単に上の空で宙を見つめているのか?


どっちにしろ、相手は俺の存在に気付かない。


だから俺は指鉄砲を作り、不良のこめかみに押し当てる。

弾かれたようにこっちを見てくる舎兄にパーンと撃つ真似をした。


「油断大敵だぜ。兄貴」


人の悪ノリもなんのその。

ヨウはお行儀悪く俺を指さして、「まさか五組?」確認を取ってくる。


「よろぴく」


右手の五本指を立てながら、俺は満面の笑顔で答えた。


そうだよ、五組だよ。

去年以上に振り回されそうな五組になっちまいました。


途端にヨウのテンションはハイになる。

目を輝かせ「舎弟がきたとか最高じゃねえか!」机という障害を乗り越えて、人の首を腕で絞めてきた。馬鹿、それは反則だって!


「ぼっち回避! マジ良かったぁ。このままじゃぼっちフラグじゃね? って、ちょい鬱になっていたからさ。やーっべ、舎弟がきたとか、さすがケイ! 俺の相棒!」

「く、苦しいって! 大体天下の荒川庸一がなーにぼっちで鬱になっているんだよ」


するとヨウは異議ありとばかりに鼻を鳴らしてくる。


「俺だってニンゲンダモノ。鬱にだってなるっつーの」

「そりゃスマソー。兄貴は何事においても最強だと思っていましたんで」


悪ノリかまして俺達は声を上げて笑った。


そうなのだ。

ヨウが喧嘩の強い不良であっても俺と変わらない年頃、至って普通の高校生だもんな。


知っているよ、お前の強い面も弱い面も長所も短所も。


お前が俺を知ってくれるように、俺もお前を知っている。



今更ヨウや仲間の不良がいない生活なんて想像もできない。



俺達の始まりは成り行き舎兄弟から。

そこから始まった俺達は色んな苦難を乗り越えてきた。


俺に“ケイ”とあだ名を付けた、思い付き傍迷惑不良のおかげで散々な目に遭ってきたっけ。


馬鹿みたいに笑ったこともあれば、馬鹿みたいに落ち込んだり、喧嘩したり、辛酸を味わったり、怖い思いをしたり、慣れない不良達の争いに参戦したり。

ヨウの舎弟になって色々な経験をしてきた。

それを乗り越えて、今、俺達はこうして舎兄弟をしている。