ココロと共に皆の下へ戻る。


妙にニヤついた顔を野郎どもに向けられたのは、双方の顔色が真っ赤だったせいだろう。


しょ、しょうがないだろう。

恋人の時間を堪能すると自然と顔が熱くなるんだよ。

俺達だってラブラブしたいんだ!

開き直り? おう開き直りだ馬鹿野郎!


閑話休題、置いて行った弥生とハジメが来たところで、ヨウは全員が揃ったことを確認。

利二は残念なことにバイトで来れなかったけど、他の皆が揃ったことにリーダーはご満悦な様子だった。


そして停戦を報告。

終止符、ではないけれど抗争に一区切りが打たれたことを皆に告げていた。

改めて言われると、「嗚呼終わったんだな」じわりじわりと実感する。


ありきたりな物語みたいに正義が悪を討ち滅ぼす・勝つ、そんな王道展開じゃないけど、これで良かったんだと思う。


だってどっちの言い分も正しかったんだ。

お互いに信念として貫いていた考えは各々間違っちゃない。


肌に合わなかっただけで、お互いの言い分は正しかったんだ。


それを受け入れられるか、受け入れられないか、それだけのことだった。そうだろ?


そりゃ一旦は亀裂が入った仲だ。

簡単に復縁できると思わないし、本当の意味で受け入れるには時間が掛かる。


それでも、一抹程度でも、相手を受け入れる契機は手にした。大きな進歩だと思う。


これからもヨウ達と日賀野達は考え方、価値観の違いで対峙をするかもしれない。

でも今までみたいに互いを突っぱねた反応はしないと思う。

俺達は相手のチームの凄さを受け入れたんだ きっと大丈夫、大丈夫だ。



「んー、なんかしっくりこないけどねぇ」



そう、ぼやいたのはワタルさん。

ニヤリニヤリしながら、ちゃんと決着を付けたかったという顔をしている。


まあ、ワタルさんの場合、チームとは個別の事情を抱えているからな。

不服不満はないだろうけれど、曖昧な気持ちになっても腑に落ちないのだろう。

ちゃんと決着を付けて魚住との関係のあり方を考えようと思っていたんじゃないかな。


いや、俺の思い過ごしかもしれない。

ワタルさんの表情を見ていたら、わりと納得した気持ちを顔に貼り付けている。


後々俺はワタルさんから耳打ちをされた。そして教えてもらったんだ。


二人が大喧嘩した理由。
ワタルさん自身も忘れていた、馬鹿らしい喧嘩の理由。


「僕ちゃーんとアキラさ。いっつも馬が合って意見も合っていたから、意見が割れることなんてなかったわけよんさま。で、どっちが正しいかで口論になった末、『お前を謝らせる!』になって大喧嘩しちゃーったわけ。

あの時は若かったよねずみ。
まさかこんなクダラナイことで喧嘩も喧嘩しちゃうなんて! だけど、ま。刺激にはなったかなぁ。退屈しのぎにもなったしねんころり」


語り部は俺に向かってウィンクした。

ワタルさんは言う。これからも個別に喧嘩して意地を張り合うと思う。


だけど、前みたいに無意味に意地を張るなんてことはしないだろう。

そう思うのはどこかで相手をまだ“親友”だと思っているからかもしれない。


「笑う?」ワタルさんの問い掛けに、「ええ」俺は一笑した。


呆れの笑いじゃない。微笑ましい気持ちが形になって表れただけ。


いいじゃないですか、ワタルさん。

そういう風に前進する気持ちを持っただけでも意味はあると思いますよ。


一通りの集会を終えた俺は、グルッとたむろ場を見渡した。

喧嘩以外で集まっている皆の顔は凄く穏やかで楽しそう。喧嘩に明け暮れていた当時は険しい顔が多かったしな。


こういう風に時間を過ごすのは皆にとっても、俺にとっても久しぶりで、心が落ち着く時間でもある。


なにより、皆の顔が吹っ切れている。

相手チームのことをどうこう考えることがなくなったからなのか、晴れ渡った顔を作っていた。

前進した顔つきと言っても過言じゃない。



前進、か。



グッと関係が縮まったハジメや弥生、トラウマを乗り越えたココロ、親友のことを想うワタルさん、午前中欠席したヨウ。因縁を持つメンバーも、持っていないメンバーも前進した。


本当の意味で前進した。

躊躇いと一抹の諦めを持って前進しようとしていないのは俺だけ、か。

それってすっごくカッコ悪いよな。

早く俺も前進する一歩を掴まないと。折角平和になったのに、このままじゃココロとデートの打ち合わせもできないや。


「あれ? ケイさん。何処かに行くんですか?」


倉庫裏に回ってチャリのカギを解除する俺に声を掛けてきたのはキヨタ。


「今からヨウさんがゲーセン行こうって言ってますよ? もし、どこかに行くなら自分も自分も!」


見えない尾を振ってくるキヨタに、

「ちょーっと野暮用」

俺は曖昧に笑みを浮かべてチャリに跨る。

皆に声を掛けて、先にゲーセンに行っておいて欲しいと笑みを向けた。

「後から絶対に行くから」

約束を取り付けてチャリを漕ぐ俺に、ヨウがこう声を掛けてきた。