「ココロ?」
「渡したいんですけど、実はこれ割れちゃって」
ん? クッキーが割れている?
「何処?」
俺は袋に目を落とした。
美味しそうな手作りバタークッキーに割れている姿は見えない。ハートもお星さんも綺麗な形を作って顔をこっちに向けてくれている。
首を傾げる俺は、「割れていないよ?」彼女に大丈夫だと返す。
割れているのだとココロは強調し、もっと近くで見るように言ってくる。
近くで見ろって言ってもなぁ。
ココロが手を放してくれないじゃんか。
「んー?」
首を傾げながら、屈んで袋を見る。
刹那、クッキーの袋を掴んでいた両手が俺の頬を包んだ。
柔らかく弾力のあるものが唇を塞ぎ、サラッとした黒上が視界を覆う。
「う、嘘です。この前、で、できなかったんで……したかっただけです。お、お、お礼もかねてみたりしちゃって……」
赤面する彼女が見上げてくる。俺は間抜けなことに呆然と佇んだ。
今、何をされた?
何を……なんで唇に柔らかい唇がっ、がー……がぁ……あああああナッシングだぜココロさんっ! それナシ! 絶対の絶対のナシナシナシ! どーしてくれるんだよっ、俺、見事に動揺の顔が真っ赤っかだよ! これを不意打ちと言わず、なんと言えばぁあああ?!
カッチンコッチン固まっている俺に、「す、好きですから!」フンッと意気込むココロ。
「ぜ、ぜ、絶対に他の人を見ちゃヤですからね! ヤですからね!」
動揺に動揺を重ねる告白をしてBダッシュ。
ココロは戦闘から逃げようとした。
咄嗟に彼女の手首を掴んでその行為を阻止するけれど、思考回路が回らない。
愛され過ぎて田山圭太、只今機能停止。機能停止。機能停止。
すぐには皆のところに戻れない俺がいる!
今戻ったら顔の赤さが、赤さが! キスをする側で慣れているわけじゃないけど、俺からする流れが自然だったから、まさか彼女からされるとは想定外! 不意打ちは卑怯!
でもやられっぱなしなんて悔しい。
彼女にも同じ気持ちを味わって欲しい。
「全然お礼が足りない」
首まで赤くしている彼女に目尻を下げ、貪欲な男はもう一度唇を味わうべく、自分のそれと重ねた。
すべてが終わった今、もう恋人の時間に遠慮をする必要もない。



