さて、たむろ場に着くと既に他の仲間達が集結していた。
そこでそわそわ、うろうろ、ちょこまかちょこまかとたむろ場を往復している少女を発見。
手には数枚の袋。
何を持っているのか知らないけど、我が彼女はいつも通り落ち着きがない。
ああいう一面を見せる時は大抵何かをしようと行動を起こす前兆だ。
苦笑いを浮かべていると、ココロが俺達の姿に気付いて全力疾走。
立ち止まるや否や、俺達の人数を確認して手に持っている袋を一人ひとりに手渡し始めた。
「ん? これは?」
受け取ったヨウが袋の中身を確認。
透明な袋に入っているのは星型のクッキーのようだ。
「お、お礼です」
ココロはモゴモゴと口ごもって手遊び。
皆に助けてもらったから、何かお礼をしたかったのだと告げてくる。
「皆さんが一生懸命、私を助けてくださったので。お一人ずつ渡そうって。皆さん、私にとって大事なお友達です」
はにかむ彼女は、前よりずっと明るさを増した。
過去を忘れたわけじゃないけど、古渡というトラウマを乗り越えたからだろう。
照れ照れに照れながら皆にクッキーを渡していた。
全員分ちゃーんと用意するところがココロらしいな。ほんとうに名前の通り心優しいよ。
「はい」
次々に手渡していくココロだったけど、俺の前に立った途端、サッと持っていた袋を両手に隠した。
……え? 何それ? いじめ? ちょ……いじめ? 俺も当然貰えるよなという気持ちで待っていたんだけど!
軽く瞠目する俺に、「あ、あのぉお!」全力でココロがキョドってきた。
お、俺の心境も「あ、あのぉお!」だよ!
クッキーを恵んでくださいな!
悲しいじゃないか、出しかけたこの右手! 手ぇ! 俺、彼氏なのにぃ!
「け、ケイさん! あー……あっ、あのですね!」
「お、おう! な、なに?!」
「うー……う゛ー」
「えー……えー?」
「う゛ー」唸るココロ、「えー?」訳が分からず声を上げる俺、ニヤニヤニヤニヤっと多数の意味深な眼。
おいおいおい、超注目度が高いんだけど!
な、な、何?! この俺いじめ!
ハジメに次いで俺が弄られるってどーゆこと?!
こ、ココロ! 早くしてくれ。
このままだと俺は野郎共のイイネタにされちまうからぁ! 女性群はともかく、野郎共は危ないんだぞ!
ホラ見ろ、ヨウやワタルさんのあの悪そうな顔! 今か今かと俺を待ち構えてやんの!
慌てる俺に感化されたのか、ココロも慌て始めた。
「あのですね!」
「おう!」
「そのですね!」
「なんでい!」
「えっとですね!」
「そろそろ会話、ココロ!」
「会話ですね!」
「そう会話ですよ!」
「こんにちは!」
「そら単なる挨拶でい!」
この落ち着きの無いカップルといったらぁ、もうカップルっつーより漫才コンビだぞ。
揃って慌てる俺等に助け舟を渡してくれたのは我等が姉御の響子さん。
「向こうに行って来い」
俺とココロの背中を押してくるもんだから、ますます疑問符を頭に浮かべる。
なんで向こうで会話をしないといけないの?
クッキーを渡してくれるだけじゃねえの?
どうせチャリを倉庫裏に置きたかったから、丁度良かったっちゃ良かったけど。
疑問を脳裏一杯に浮かべながら、ココロと倉庫裏に回る。
誰もいないことを十二分に確認する彼女は俺がチャリを止めることを目にした後、そっと隠していたクッキーを袋を差し出してきてくれた。
中身は星型のクッキーに交じってハートがチラホラ。皆のものには確かお星さんだけだった。
わぁ、だからココロは手渡すのを躊躇っていたのか、俺ってば愛されてるぅ。
「サンキュ」
俺は頬を掻きながら、彼女から袋を受け取って、受けと……うけ……ココロさん、手を放してくれないのは何故ですか?



