あの日。
五十嵐達を討ち取った日、俺達は因縁の不良に勝利したんだけど後始末がすこぶる大変だった。
五十嵐がゲームを盛り上げるために、倉庫に灯油をばら撒いてくれたおかげさまで危うく倉庫が火事になるところだった。
勿論騒動がばれなかったわけなく、火事騒動が明るみに出たのは言うまでも無い。
ただし火事騒動は俺達の責任じゃないから、灯油を持参して下さった敵さんに責任を取ってもらった。
そして俺達は悠々警察その他等々の目を掻い潜った! わけもなく、“港倉庫街”で大騒動を起こしたからフツーに騒動のことを各々学校に通報されちまった。
幸い、通報されたのは学校生徒そのものであって、個人名を出されなかった。
学校側も表沙汰に騒動のことを出したくなかったっぽかったから、後日全校集会を開いて厳重に騒動のことを注意。事なく得た。
まあ、学校はある程度誰が騒動を起こしたか分かっていたっぽい。
こんな馬鹿騒動起こしたのは、学校の問題児である“不良達”しかいないと容易に結論が達したんだろうな。
後々個別で呼び出しは喰らったよ。
シラを切ったけどありゃバレていたと思う。
今度こんな騒動を起こしたら容赦なく保護者を呼び出される。もしくは停学(退学)処分なんだろうな。
ううっ、想像するだけで身の毛がよだつ。
でも一方で、五十嵐達と決着がついてホッとする俺がいるんだ。
日賀野達と対峙していた以上に、あいつとの対峙は神経を使ったからな。姑息卑怯非道極まりなかったし。
そういえば五十嵐の奴、軽く警察に捕まったと話を聞いたな。
やっぱ灯油を持参ってのが、な。
持参の上に一種の放火もどきをしちまったんだ。
そりゃ警察からお呼び出しもくる。
幾ら喧嘩でもしても良いこと、悪いことがあるよ。
ちなみにこの情報を教えてくれたのは、五十嵐の義弟・須垣誠吾生徒会長。
彼は前触れも無く俺達の前に現れて、和気藹々世間話程度に話してくれた。
「義兄さんに勝利したみたいだね。オメデトウ。ま、おかげで僕の家は大騒動だけど」
しっかりと皮肉を付け足して。
須垣先輩は意気揚々とした顔で俺達に報告した。
どうやら義兄が痛い目に遭ったことを面白がっていたっぽい。
背景にはきっと苦労があったんだろうな。半分だけ家族でも不良が家族、しかも五十嵐みたいな性格の持ち主だったら苦労するよな。
「義兄さんの二の舞にならないようにね」
やっぱり須垣先輩は不良に嫌悪感を抱いているようで、最後の最後までシニカルな言葉を送ってきてくれた。
俺みたいに不良に好感を持って気持ちを改める奴もいれば、不良の存在に嫌悪感を持つ奴も当然いる。
須垣先輩の態度はある意味、妥当な態度だったのかもしれない。
残念な事にお友達には一生なれなさそうな人種だ。
ぼんやりと物思いに耽っていると、
「終わったんだな」
利二が改めて話を切り出す。
たっぷりと間を置いて俺は微笑。
ああ、終わったんだ。五十嵐とのバトル、因縁の対決も。
「五十嵐達とのバトルで、いがみ合っていた両チームのあり方が少し……変化したからな。今しばらくは決着もオアズケだろうよ」
喧嘩を終えたヨウが俺達を含む両チームに出した案は、これまでになかった譲歩案。
対峙していた両チームが、初めて少し姿勢を変えようとする案をヨウは打ち出した。
勿論向こうのリーダーが負傷をして不在だったから、後日話し合いを持っていくとは言っていたけれど、その案は中学時代に対峙していたヨウ達を大きく変えるもの。
きっと日賀野もチーム想いだから受け入れるんじゃないかな。
個々人に因縁がある奴はともかく、両チームとしてはきっと……望ましい案だと俺は思っている。
「だったら向こうの友と仲直りもできるんじゃないか? 仲直りは語弊かもしれないがな」
気遣いを含む利二の言葉、俺は視線を机上に落として口を一の字に結んだ。
向こうチームには絶交宣言を交わした友達がいる。
緩和されつつあるけど、俺達の仲は絶交宣言を交わした頃と同じ。
何一つ変化が見られない。