「ふぁー……ねむ。あれからもう二週間か。ンー……平和だねぇ」


大きな欠伸を零す俺はうんっと背伸びをして目を擦る。


「穏やか過ぎてボケそう」


ポロッと零した呟きに、「平和ボケか?」後ろから笑声が飛んできた。


首だけ動かすと、そこには愛しの地味友・利二の姿。

平和を愛していたくせに何を言っているんだと軽く頭を小突いて、堂々前の席に座るジミニャーノに俺は目で笑う。


いやだって仕方が無いだろう。ここ最近ド派手な喧嘩ばーっかしてきたんだから。


マジで慣れは怖いよな。

いつの間にか物騒な喧嘩が“当たり前”になっているんだ。


こうも喧嘩がないと体がだるい。


好きか嫌いか、選択肢を迫られたら、当然後者を選ぶけど。


一方、喧嘩ばかりして体を動かしてたもんだから、頭は鈍っているようだ。授業がちっとも身に入らない。


授業に入った途端、睡魔という名の悪魔が俺を蝕んでくる。誘惑してくるんだよ、眠気がさ!


だがしかし、サボってばっかの俺だから? テストで良い点とらないと留年になる。


しかもその理由がオサボリとか、ぜぇえって親に殺されるから!


母さんからぶっ叩かれても文句も言えない。頑張って授業を受けているよ。

うん、今後の進路のためにもさ。



だけど本当に平和だねぇ。



“あれから”もう二週間、されど二週間経ったというのに、嘘みたいに平和だ。


五十嵐とのバトルの時は毎日が忙し過ぎて目が回りそうだったのに。

五十嵐の前は日賀野達とドンパチしていたしな。

喧嘩三昧が当たり前のクラッカーだったから、今のこの時間が平和過ぎて眠くなる。


欠伸ばっかり噛み締める俺に、

「平和だな」

利二がつられて欠伸。

めっきり仕事が減ったせいかもしれない、とぼやく。


そうだよな。

利二は荒川チームの間接情報屋だったんだし、チームが喧嘩をしなくなりゃ、そりゃ情報収集もしなくて良いから暇だよな。


平和が恋しいと思っていたのに、いざ平和な日常に放り込まれると暇だなぁ。暇だぁ、暇は人を駄目にしちまう。

じゃあ今までの遅れを取り戻すために勉強しろよってツッコまれたら、それはヤダー、メンドー、ダルー、眠くなるー……まさしく駄目男一直線じゃね? 俺?!


これじゃあ、ただの怠け者だろ!


ハロー怠け者田山、不良にすらなれねぇお前はジミニャーノ風上にも置けねぇぞ。


地味以下だ。ジミニャーノを名乗る資格もねぇ! ……そ、そんな殺生な!



「ううっ、そりゃヤダ。頑張って勉強をするから……卒業してみるさ。絶対にしてみる。利二、俺はお前と卒業するからな!」

「……またお前は自分ワールドを繰り広げる。言葉のドッジボールはやめろ。会話とは言葉がキャッチされて成立するコミュニケーションの一つだぞ」



そりゃまた失礼。


頭を抱えていた俺だけど、ぺろっと舌を出して一笑。憮然と肩を竦める利二は俺の机に肘を置いて頬杖をつく。

不意に停学処分にならなくて良かったな、と話題を切り出してきた。

ほんとうにな、俺は深々と相槌を打った。