「ゲホゲッホ。うぇっ、しょっぺぇ。最悪、俺まで海に落ちるとか……ベトベトするし」
「ゲッホ、ははっ、ダッセェ、ケイ。びしょ濡れだな。風邪ひくなよ」
誰のせいだと思っているんだよ、こんの阿呆! よくもまあ、海に引きこんでくれたよな!
ゼェゼェと息をついてコンクリートの縁に上がった俺は、ヨウに手を貸してやり、揃って大の字に寝転がる。
お互いに息遣いは荒く、ちょっとだけ海の水を飲んで咽ていたりする。
でも気持ちはスーッと晴れ渡っていた。
向こうで気を失っている五十嵐を流し目にした俺とヨウは視線を合わせて、今度は夜空に目を向ける。
地上の星(ネオン)は沢山見えるのに、夜空の星は果敢なく消えそうな光を放っている。地上の明かりが明るいせいだろうな。
弾んだ息を呑み込んで、
「火ィ消されたかな。警察沙汰になるかな」
ヨウに話題を振る。
「大丈夫だろう」
火はきっと仲間達が消してくれる筈。
無理だったら消防署に連絡でもやるんじゃね? なーんて他人事のように言った。
お前なぁ、警察沙汰になったら停学、最悪退学処分だぞ。分かっているのか、そこらへん……ま、火を点けたは俺達じゃないしな。
喧嘩もゲームも火も五十嵐達に責任がある。
処罰するならどうぞ、五十嵐達を処罰してくれ。
「終わったな」
上体を起こすヨウは、意外と呆気なかったと口にする。
馬鹿、トラウマになりそうな濃厚なゲームだったっつーの。
幸い人質は無事だったけど日賀野は負傷しちまったし。
いつ仲間が傷付くかと思うと気が気じゃなかったって。
まあ、実際はヨウも俺と同じ心境なんだろうけどな。
俺も上体を起こす。
向こうでバイクのエンジン音が聞こえた。
視線を投げれば、五十嵐と一緒にいた不良がバイクに乗ってトンズラしている。仲間である筈の五十嵐なんて目もくれない。
上辺だけ、力だけの関係だと、そんなもんなんだろうな。
そういう世界を否定するつもりは無いけど、なんか……むないと思う俺がいる。
それはきっと俺が仲間を必要としているから。居場所として必要としているからなんだろうな。
瞬きをして走り去ったバイクを思っていると、「ケイ」名前を呼ばれた。
首を捻ってヨウに視線を留める。
ヨウは満面の笑みを浮かべて、俺に拳を見せ付けてきた。
さっき言いそびれた台詞を口にする。
「今度こそ勝った。ヤマト達のやり方と俺達のやり方が合わさって、正々堂々地元で名前を挙げていた五十嵐竜也に勝ったんだ。
これは俺自身、そしてチームの誇りだ。そうだろ? ケイ」
軽く拳を見た後、俺は一笑してヨウと拳を合わせた。
「やったな、兄貴。ハジメの仇やチームの雪辱は果たせたじゃん」
「仲間や舎弟、二チームがいてこそ掴んだ勝利だ。俺一人の力じゃねえ。こんなにも達成感のある喧嘩は初めてだ」
ああ、ほんとにな。
こんなに満たされた喧嘩は初めてだ。
エリア戦争と対照的な感情が支配している。
俺は相槌を打って、
「皆のところに戻るか?」
舎兄に案を出してみる。
もう少し此処で休憩したいとヨウは言ってきた。
良かった、俺も同じ気持ちだよ。
ちょっと今の出来事で疲れたんだ。一休みしたい。
すぐに俺達が戻らなくても大丈夫。
皆、強いだろうし、倉庫の火だってどうにかしてくれる筈。
今頃、消火器でも探し出して火を消しているかもな。
日賀野が心配だけど、あいつだってすぐにくたばる奴じゃないだろ。天下の日賀野大和さまだもんな。