スピードを出すせいで、真っ向から吹く風は暴風のよう。
だけど構う事無く、俺はヨウを乗せてチャリを走らせる。
曲がりくねった脇道を飛び出し、船がチラチラッと夜景が見えてきた。
夜景に散らばるネオンはまるで空に散らばっている星のように見える。
地上の星として点々と瞬いている。
その星の中、エンジン音を響かせて移動する点を発見。五十嵐達だ。
「ビンゴだぜ」
よくやったと褒めてくれるヨウだけど、まだその台詞は早い。見つけただけで勝ってもないんだからな、俺等。
「ヨウ、今から前に出てバイクの動きを止める。お前は降りろ。失敗すれば轢かれちまう。お前は怪我しちゃ不味い」
バイクの動きを止めるには、無謀にもチャリを飛び出させないといけない。
これが最善の策だと俺は思っている。
いやガチ話、怖い、怖いよ?
入院どころかあの世に行きそうな戦法だし……でもこれしかない。
「阿呆」
案は見事に一蹴されちまった。
「お前が怪我しても不味いだろーが。俺は舎弟を犠牲にするつもりは毛頭ねぇぞ。それよりもっと良い方法がある筈だ」
ンマー、惚れちまいそうだぜ兄貴! 女の子が黄色い悲鳴を上げそうな台詞だぜ!
だけど他に策なんてあるか?
「そういや、ケイ、テメェ。ブレザーは?」
ヨウの突拍子も無い質問に、俺はついつい溜息。
今は関係ないだろ、ブレザーなんて。
「ブレザーは貸してきたよ。どうするんだよ。早くしないと奴等が逃げちまうぞ」
「……そうだ。ブレザーだ! ケイ、ブレザーが使えるじゃねえか!」
「はあ?」俺は思わず声を出すけど、「あいつ等の前に回ってくれ」ヨウはお構いなしに指示。
こっちに向かって来るバイクと擦れ違うような形で通り過ぎろと指示された。
驚いてしまうけれど、説明する暇も聞く暇もない。
何が何だか分からないけど、誰も怪我せずバイクを止められる方法が見つかったらしい。
俺はヨウを信じてチャリをかっ飛ばした。
舎兄は舎弟を信じてくれるんだ。
だったらその反対もないと俺の立場がないだろう?
闇を切って走るバイクを捉え、俺は言われたとおりバイク横ギリギリを通り過ぎるようなカタチでチャリを漕ぐ。
「五十嵐!」
親玉に向かって吠えるヨウはバイクとチャリが通り過ぎる手前でブレザーを脱いで、運転手の顔にそれを投げ被せた。
視界を覆われた運転手は身の安全を確保するためにバイクを一時停止。
「今だ!」
ヨウの掛け声と共に、俺はチャリを迂回させて真横からバイクに激突させた。
バイクであろうとチャリであろうと二輪は真横への攻撃がすこぶる弱い。
重量感あるバイクは運転手もろとも横へと転倒。
バイクは重たいからな、一人で起こすのには時間が掛かるだろう。運転手もダメージを受けたみたいだ。
肝心の五十嵐はというと間一髪でバイクから降り、難を逃れていた。
まったくもって悪運の強い奴だな。感心するぞ。
綺麗に地に着地する五十嵐は忌々しそうに俺等を見据えて舌を鳴らした。
「此処まで追って来るとはな。一々計画を狂わす奴等だ。あの頃からそうだ。あの頃から貴様等は、俺の邪魔ばかりしてくる」
「べつに邪魔したつもりなんざねぇよ。あの頃、テメェは俺等の仲間を傷付けた。だから仕返しをした。それだけだ。気に食わないからって俺等にちょっかい出してきたのはお前だろ?」
喧嘩売った相手が悪かったんだよ、細く綻ぶヨウは俺の肩を叩いた。
ペダルを踏む俺はチャリを前進させる。
その間もヨウは五十嵐に吐き捨てた。



