「シズ、後は頼んだぜ。火の後始末、どうにかしておいてくれ」



リーダーの指示と、「ヨウ!」帆奈美さんの悲鳴。


どうやらヨウは二階から雨樋を伝って下におりたようだ。俺も急いで階段を下りると、決着がつきそうな乱闘を掻い潜って外に出た。



倉庫の壁際に立てかけていたチャリに跨ってペダルを踏むと、急いで五十嵐達がいたであろう窓の下に回る。



俺が窓の下に着く一歩手前、五十嵐達が何処かに向かってバイクを走らせ始めた。方角からして“港倉庫街”正門じゃなさそうだな。


この喧嘩のほとぼりが冷めるまで、どこかで身を隠そうって魂胆か?


それとも抜け道が……後者だろうな。抜け道っつったら、俺が地図を頭に叩き込んだ限り一つしかない。


雨樋を伝って二階から下りてきたヨウは、遅かったかと下唇を噛み締め、それでも相手を追い駆けようと走り出す。

バイク相手じゃ絶対に追いつかないと分かっているくせに、仲間のために、両チームのために、自分のために終わらそうとするその直向きなところはヨウの長所だ。


俺はあの姿を見て、舎兄について行こうと決めた。最後までついて行こうと決めたんだよ。

一人で突っ走ろうとするヨウの前に回って、俺はチャリをとめた。


「乗れよ」


決着付けに行こうぜ、いつもの調子で笑ってみせる。


「走って追うなんて絶対に無理だろ。お前の足を忘れんな」


ちょいと呆けるヨウだったけど、すぐに満面の笑顔を作った。



「バーカ。テメェが追い駆けてくるのは当然だろ? ケイは俺の舎弟なんだから。追って来ると信じていたよ」



負けん気いっぱいの台詞が飛んでくる。

言葉に茨になく、颯爽とチャリの後ろに乗って肩を叩いてきた。

合図だと判断した俺はチャリを発進。全力でペダルを漕いで、五十嵐達の後を追う。



「ケイ、ココロは?」



俺の気持ちを心配しての気遣いだろう。「大丈夫」俺はヨウに返事をした。



「無事だよ。今は響子さん達と一緒だ。帆奈美さんも無事で良かった」


「ああ。ヤマトがあいつを全力で守ったからな。こりゃ何が何でも、五十嵐を討ち取らないと俺の立場ねぇや。
それにしても五十嵐、何処に……性格上、今日のところは一旦引いて再度ゲームを申し込む寸法だろうが、そうはさせねぇ。これ以上肝の縮まるゲームに付き合ってられっか!」


「多分、抜け道を使うと思う。此処、港倉庫街には正門以外に一箇所だけ抜け道がある」



それは同じ東エリアの貨物船場。

貨物船付近に貨物を載せたトラックが入れるよう関門があるんだ。


トラックが通れるんだから、当然バイクも通れる。

直接普通道路と繋がっているし、五十嵐を乗せたバイクはきっとその抜け道に向かっている筈。勿論俺の憶測に過ぎない。


けど話を聞いた途端、ヨウは当たり前のように俺を信じてくれるんだ。


「ケイが言うから間違いねぇ」


なーんてプレッシャーをかけて、さ。


「追いつけるか?」

「ははっ、これでも“足”を自負している俺ですから? 何が何でも追いついてみせますって兄貴!」


荒々しくハンドルを切る俺に、「頼もしいぜ」流石は俺の舎弟だと褒めてくれる。


そりゃお前のせいでどんだけ扱かれたと思っているんだよ。

来る日も来る日も不良達に喧嘩売られ、追い駆けられ、俺は散々嘆いて日々を過ごしてきたんだ。少しは成長してないとおかしいだろ?


脇道にチャリを突っ込ませ、フルスピードでコンテナタワーを過ぎる。


しかし、どう頑張ってもチャリのスピードとバイクのスピードには大差がある。


間に合うと啖呵切ったものの追いつくかな。

ちょい不安になってきたぞ。


いや、言い切ったからには追いつく。何が何でも追いつくさ。