助けた筈なのに、何故か俺が助けられた感ムンムン。
これがイケメンとジミニャーノの差か。
どんなにジミニャーノが頑張っても、美味いところはイケメンが取っていくのか。
畜生、イケメン不良に妬みを覚えるぜ!
ヨウの手を取って、立ち上がる俺はそっくりそのまま言葉を返した。
柔和に綻ぶヨウは「サンキュ」、俺の首に腕を回して助かったと一笑。
一方で健太は日賀野の下に駆け寄って、「大丈夫ですか?」声を掛け、意識を確認していた。
日賀野は朦朧とだけど意識はあるみたいだ。
健太の声掛けに相槌を打っている。
でもあんまり大丈夫そうでもない。
それを物語るように彼のカッターシャツが点々とどす黒い赤に染まっていた。
急いでこの場から離れたほうが良いと判断した健太は、日賀野を背負って俺達に視線を流してきた。
「おれは一旦ヤマトさんを外に連れ出すから。それからこの火はどうにかしないと……下手すりゃ警察沙汰になる」
「ああ。分かっている山田。工場のどっかに消火器があった筈だ。それを探さないと。けど、まずは五十嵐……あ、そういやあいつは何処へ行きやがったんだ?」
慌てて周囲を見渡すヨウは、親玉の姿がいないことに舌を鳴らした。
どうやらヨウはまだ親玉と決着を付けていないようだ。ということはこの近辺に五十嵐が? でも、身を隠せそうな場所はなさそうだ。
向こうでドラム缶の山が崩れているけれど、五十嵐らしき不良はいない。
逃げたのかもしれない。現状の不利を察して。
証拠付けるものとして、あそこの窓が開いて……窓が開いている?
俺は急いで開かれた窓に駆け寄って下を覗き込む。
そこには仲間であろう不良のバイクの後ろに乗る五十嵐の姿。
雨樋(あまとい)を伝って下に逃げたな! 二階階段の出入り口は使えないって判断したに違いない。
「あ゛っ、五十嵐。テメェ!」
遅れて窓の下を覗き込んだヨウは、逃がすかとばかりに窓枠に足を掛けた。ちょ……お前、まさか!
「ヨウ、駄目!」
ヨウの行動を制する女性の声。帆奈美さんだ。
シズ達と共にこっちに駆けて来る。
下の階で繰り広げられてきた喧嘩に勝利の一旗を挙げて、俺達に助太刀しに来たというところなのだろう。
「追う必要ない」
どうせ彼は自らセッティングしたゲームと喧嘩に背を向け、尻尾を巻いて逃げるのだ。自分の不利、そして敗北が怖いから逃げてしまうのだ。
だったら逃げさせれば良い。
深追いしたら今度はヨウが怪我を負う、そう切に告げる帆奈美さんはヨウの行動を止めるために彼の制服を握った。
「今は火」
どうにかして火を消そう、彼女の切々な気持ちにヨウは唸り声を上げて頭部をガシガシ掻いた。
煮え切らない態度に、「プライド優先?」帆奈美さんは何処か不貞腐れた表情を作る。
勝たないと気が済まないのか、彼女の詰問に俺は心中で否定した。
違うよ、帆奈美さん。確かにヨウは今回のゲームで特に“勝利”に執着している。勝たないと意味が無い、そう思っているんだ。
だけどそれは、決して自分のプライドのためだけじゃない。
ヨウはチームのリーダーだから、仲間想いで真っ直ぐなどーしょうもないリーダーだから。
俺は準備をするためにそっと踵返した。ヨウの、帆奈美さんに告げる気持ちを耳にしながら。
「いつもだったら、此処で『うるせぇ』の一言をテメェを置いてけぼりにするんだろうな。
なあ帆奈美、俺は終わらせたいんだ。
此処であいつを逃がしたら、またゲームが始まっちまうだろ? 仲間が傷付く。
そりゃ俺もヤマトもリーダーとしてごめんな状況。
だから追うんだよ。もう、仲間を傷付けさせないためにもな。終わらせてくる……全部な。
それにこのままじゃヤマトが浮かばれないだろ? お前はヤマトの傍にいろ。いいな?」
きっとヨウは今までにないくらい優しい表情を彼女に向け、帆奈美さんは彼の言葉に呆けている。そうに違いない。
ただ水を差すようだけどさ。ヨウさん、浮かばれないって……日賀野は死んじゃないだろーよ。縁起でもねぇ!



