先ほどのフックが反動で戻って来たため、それを可憐に避けてみせたヨウだったが、その際灯油が撒かれている床へ避けてしまい、制服のズボンに火が点いた。



「アチッ!」どうにか自分の足で揉み消すヨウに、「マヌケ……」何をしているんだとヤマトは溜息を吐く。


コノヤロウ。

人が必死こいて守ってやっているのにその言い草、この場で落としてやろうか。


こめかみに青筋を立てるヨウだったが、ゼェゼェ息をついている相手にそんなこと出来る筈も無く。

早く仲間達が此処にやってくることを願った。


でなければ、自分も喧嘩に集中できない。


その時だった、別の巨大S状フックがヨウの死角に襲い掛かったのは。


避けることも儘ならず、どうにか怪我人のヤマトをその場に落としたまでは良かったが、そのまま勢いづいた重量感あるS状フックのせいで手摺から上半身を越してしまう。

上半身が手摺向こうに持っていかれるのならば、胴と繋がっている下半身も自然と持っていかれる。


「荒川!」


ヤマトの怒声を耳にしつつ、ヨウは現状に瞠目するしかなかった。やべっ、このままじゃ落ちる。





「ヨウ―――!」





ガックンと体が揺れ、強い力で体を前に引き戻されたのはその直後。


脱臼してしまうんじゃないかというような痛みが肩に走ったが、それ以上に、驚いたのは……「うわっちっ!」「うぎゃっつ!」勢いのまま転倒するヨウは、助けてくれた相手を下敷きに。


呻き声を上げている救世主はヨウの下でもがいている。



「アイテテテ。あーあ……何もこんな時まで、ブラザーと同じ運命を辿ろうとしなくてもいいじゃないっすか兄貴。落ちたら、モロ俺と運命共同体。というか、退いてくれっ、重い! ヨウ、マジ重!」



まったくタイミング良過ぎるだろ、我がジミニャーノ舎弟くんは。

ヨウは思わず笑声を漏らしてしまったのだった。