超爽やかな笑顔で、キラッと歯を煌かせながら自分にお褒めのお言葉を掛けてくれた兄貴(※あくまでキヨタビジョン)。
『お前、俺の元気の素だよ』ということは、少しならず兄分に期待されているわけで? その期待に応えない自分じゃない。
今、任された仕事をしっかりこなす。
それは兄分の期待に応えることにもなる。
親友のモトにも教えて貰った。兄分の期待を応えてこそのブラザーだと。
モトは日に日にヨウの弟分として、時に嫌な役も買って逞しく立派になっている。
親友の努力を目の当たりにしている自分も負けていられないのだ!
「狙うはケイさんの舎弟! 負けませんよ。舎兄のヨウさんにも、五木さんにも、山田にも、それからモトにも! ライバルはいっぱいいるっス。頑張らないと。
ケイさんのように立派で逞しい、男前な心意気を持つ不良になるんっス! 舎弟の座ゲットするんだぜ!」
目を爛々と輝かせるキヨタは黒に染めた髪を夜風に靡かせ決意を改め、鼻息を荒くする。
「あ、そうだ」
暇だというのならば兄貴の素晴らしい武勇伝でも聞くかとキヨタは提案を出す。
皆も円満になるだろうし、自分も兄分を自慢できる。我ながらナイスグッドアイデアだと手を叩く。
出逢い話からバッチシ語れると二人に振り返ると、いつの間にかそこには人はおらず。しれっと各々バイクに戻っていた。
「なんっすかそれー!」
キヨタからしてみれば心外な態度だが、二人にとっては冗談ではない。
武勇伝を聞くくらいならば、手持ち無沙汰の駄目人間になっていた方がマシだ。
どっかりとバイクに座るワタルは一服しようと、ブレザーのポケットから煙草を取り出す。
しかし中身は空っぽ。
どうやら補充を忘れたようだ。
「最悪」
一服する楽しみさえないのか、嘆きたくなったその瞬間、顔面に向かって物が投げられた。間一髪のところでキャッチしたワタルは正体を確認。
マイルドセブンと銘柄の入った箱、自分のお気に入りの煙草である。
そしてこれを愛煙しているのは自分の知る限り、一人しかいない。
煙草を吸うヨウや響子はマルボロだし、向こうチームで喫煙者といえば……ヤマトやケン。
ケンは知らないが、ヤマトは確かセブンスターだった筈。
「くれるのん?」
明日、雨でも降るんじゃないかと一笑してやれば、向こうも皮肉ったように一笑してくる。
「一本百万円じゃい」
「駄菓子屋の親父的ノリやめてよねんころり。ウザーイ!」
「お前にだけは言われたくないぞい。仕方が無いから、火」
煙草を一本やるから火を寄越せ、と相手は条件を突きつけてきた。
ライターの火種の点きが悪いらしい。
真偽はともかく、悪い条件ではないため乗ってやることにした。
煙草に火を点けた後、先にライター、次いで煙草の箱を投げ渡し、二人で一服。
距離は置いているが久々に揃って煙草を一服しているな、とワタルは思った。
ふーっと紫煙を吐き、神妙な面持ちで煙草を味わっていると、「久々じゃのう」アキラが話を切り出してきた。
「こうして二人で喫煙する。前はよくやっていた」
決してそれは皮肉ではなく、懐古の念からの感想。
間を置いてワタルは相槌を打った。
「一緒に喧嘩も久しいよね」
赤く発光している煙草の先端を見つめ、ワタルは言葉を重ねる。
「対峙という意味で喧嘩ばっかしているんじゃがな」
珍しくも失笑を零すアキラに、それもそうだワタルは苦笑で返した。
中学時代では、考えられない関係を自分達は築き上げている。
あの頃の自分達では、本当に信じられない現実を今、この瞬間に過ごしている。
別に今の仲間達が不服不満と言うわけではないが、改めて小中時代一緒につるんでいた親友が隣にいないという現実が時々不思議でならなかったりする。
分裂事件を契機に、どちらにつくかで大喧嘩した自分達なのだが……はて、そういえば自分達はどうしてここまで大喧嘩したのだっけ。