「良かったの? ケイと一緒にいたかったんじゃない?」



彼氏達の背中をいつまでも見送っていたココロは弥生の問い掛けに、暗闇が広がっている道から目を放して彼女に視線を投げる。


本音を言えば一緒にいたかった。

離れ離れにされ、軟禁されていた恐怖を彼の温もりで拭って欲しいとも想っている。



でも、それは後からできることなのだ。


体を張って自分を助けてくれた彼はかの有名な不良、荒川庸一の舎弟。


一連の騒動がおさまるまで右へ左へ奔走し続けるだろう。

それだけ大変なポジションに立っているのだから。きっと自分が我が儘を言っても彼を困らせるだけ。


彼は自分を大事にしてくれる。

同じように仲間も大事にしている。


大切な仲間が、無二の相棒の舎兄が、正念場を迎えている。


彼はジッとなんてしてられないだろう。


喧嘩がどんなに嫌いで苦手でも、そうやって仲間と一緒に動く男の子なのだとココロは知っている。自他共に認めるカッコつけさんなのだ。


じゃあ彼女の自分もちょっぴり背伸びをしてカッコつけさんになろう。


自分の我が儘を押し殺し、笑顔で彼を見送ってやろう。


それが舎弟の彼女の今やるべきことなのだ。


それに……彼は単に仲間のところへ走るわけではなく、自分のことをちゃんと想ってくれている。


ココロは手渡された緋色のブレザーをギュッと抱き締める。


まるでちゃんと自分の下に戻って来ると約束してくれるように手渡してきたブレザー。


おもむろに羽織ってみると、自分には一回り大きいようだ。

袖から指先が少し見える程度で、とてもブカブカだと両手を横に広げ笑ってしまう。


「おっきい」ココロの笑声に、「愛されてるねぇ」響子は妹分に一笑。


「ちょい前まで『恋人ができるとは思えない』とか言っていたのに。ちゃーんとアンタのことを好きと言ってくれる奴いるじゃねえか。なあ?」


「ううっ……響子さん。蒸し返さないで下さい。もう昔のことです」

「ああそうだ。過去のことだ。イジイジしていた過去とはもう、おさらばだよ。ココロ」


目で優しく微笑まれ、ココロは姉分に対し満面の笑顔を作った。そして思うのだ。


「響子さん。弥生ちゃん。私、大きく一歩前に進めたと思います。だから……これが終わったら皆さんに言いたいです」


大切な友達二人を正面から見つめ、ココロは今までに無く柔和に表情を崩した。


「助けてありがとうございます。私、皆さんのお友達で良かった。皆、大事で自慢のお友達ですって」

「言ってやれ言ってやれ。皆、体を張った甲斐があるって喜ぶぜ?」

「ふふっ、でもココロ。例外が一人いるんじゃない? 例外さんはオトモダチじゃないでしょ」


弥生の茶化しに軽く頬を桃色に染めつつ、ココロは纏っているブレザーの裾をギュッと握り締めて台詞を訂正する。



「チームの皆さんは自慢で大事なお友達。ケイさんは大好きで大切な彼氏です」



嗚呼ブレザーから、微かに彼の温もりを感じる。


それは優しさに近い、大好きな温かさだった。




⇒#09