煩いな、このお節介。
俺だって本当は傍にいてやりたいよ。心配していた分、彼女と思い切り過ごして喋って触れたいよ。
だけどな、俺達の目的は救出じゃないだろ。
あくまで救出は一つのクエスト、最終の目的は五十嵐への勝利。
俺達チームの誇りを懸けて勝利することだ。
彼女のことは響子さんや弥生に任せれば大丈夫。
それにココロだって分かってくれている筈だ。
彼女に視線を投げたら、強い気持ちが宿っている瞳を返された。
俺はバイクに乗るイカバ、チャリの前に立つ健太にちょっとだけ背を向けてココロに歩み寄る。
一から十まで説明しなくても状況を理解しているココロは、
「帆奈美さんを助けて下さい」
懸命に頼み込んでくる。
勿論だと頷く俺に弱々しく一笑するココロは、ちょっとだけ視線をアスファルトに向けた後、
「ケイさん、いってらっしゃい」
一変して花咲く笑顔を作った。俺は苦笑して彼女を見つめ返す。
「ごめんな。本当は一緒にいてやりたい。でも俺はヨウの舎弟。行かないと」
「はい、分かってますよ。私はその舎弟の彼女ですから」
頑張ってきて下さいと小さな右の拳を俺に差し出す。全部が終わったら俺や皆にお礼を言いたい、そう笑みを零して。
まさか彼女から拳を差し出されるとは思わなかった俺は軽く瞠目、すぐに頬を崩すと「いってくるよ」拳をコツンと軽く合わせた。
ついでに緋色のブレザーを脱ぐと、彼女に手渡す。
これからココロ達は避難をするために何処かに身を隠すのだろう。
でも優しい彼女達は“港倉庫街”の一角に留まると思う。
長丁場になったら夜風で体冷やすし、向こうはセーラーだしな。
重ね着をしても損は無いと思う。
本当はキザに彼女の肩に掛けてやればいいんだろうけど、この行為だけでもキザだから……アー、これが俺の精一杯だ。
キザなんて俺には似合わないと分かっているしな。
はは……っ、ヨウ達が見たら爆笑もんだろうしな!
ココロは差し出されたブレザーに瞳を真ん丸お月さんにした。そして嬉しそうに受け取ってくれる。
一笑して、俺は彼女に背を向けると響子さんや味方の不良達に後のことを任せてチャリまで駆け足。
颯爽とチャリに跨って後ろに健太を乗せるとペダルに足を掛けてチャリを発進させる。
そして一度も振り返ることなく、チャリを漕いで東エリアへと向かった。
バイクで先を走るイカバを見やりながら、健太はニヤニヤっと俺の顔を覗き込む。
「キスはしなくて良かったのか? 圭太くん」
「……うるさい。次そんなことを言ったら問答無用で落とすからな」
「まったぁ、そんなこと言っちゃって。いいよなぁ、彼女ができると沢山カッコつけられるんだから。
『行って来るぜハニー。チュー』とか言って、キャッとギュッと彼女を抱き締めたりなんかして」
「ぶ、ぶっ飛ばされたいか健太!」
「おーコワイコワイ」
からかってくる健太に、舌を鳴らして俺は火照る頬を夜風に曝す。
カッコをつける、それは仕方が無いじゃないか。
元々見栄を張りたがる調子乗りの性格なんだし、彼女の前じゃ余計それが前面に出るんだよ。
誰よりも彼女に好意を寄せているんだ。どーせならカッコイイところ見てもらいたいじゃないか。なあ?
夜風はちょっち冷たく、ブレザーを彼女に託したおかげさまでさっき以上に冷たく感じる。
けれどその冷たさが苦にならないのは、体全体が熱を帯びているから。彼女を想いながら俺はチャリの速度を上げる。
半分に欠けたお月さんが、いつまでもいつまでも俺達の頭上遙か遠く彼方遠くで優しく照らしていた。