ロールケーキにブツクサ言っていた我等が副リーダーだが、一変して険しい顔を作るとアクセルを回して発進。


先頭を走り始める自分達に続いて仲間達もバイクやチャリで風を切った。


目を眇めつつ、ヨウはまず背後を確認。

仲間達がついて来ていることを確かめた後、敵が追って来ていないかどうか目で探す。


背後には敵の姿が見えない。

どうやら背後を取られることは今のところ無さそうだ。


敵の姿等を見つけるのは主にチャリ組の仕事だが、必ず死角というものが存在する。


確実に向こうの動きを把握するためにも、手が余れば自分達も仕事に加担するというのが約束事として入っている。


持ち前の金髪と赤メッシュを向かい風に靡かせ、ヨウは前方を睨んだ。

コンテナの山を通り過ぎると三つに道が分かれている。


協定チーム達は三手に分かれて行くが、なるべく自分達は固まっていた方がいい。



「(右か左か正面か。チッ……取り敢えず俺の性格に従ってみっか)シズ、このまま真っ直ぐ突っ切れ。左右は協定たちに任せる」



バイクのライトで照らし出す直線の道を指差して、ヨウは声音を張った。真っ直ぐ進むと。

フッと表情を崩すシズは了解だとばかりに頷いた。


「お前らしい判断だ。掴まってろ、スピードを上げる」


アクセルを回し、バイクはますますスピードに乗る。

風の強さを肌で感じながら、ヨウは五十嵐達の姿はないかと目で探す。


自分や仲間達、そしてチームに屈辱を味わわせただけでなく、大事な仲間を人質に取るあの狡い男は何処だ。


ヤマト以上に狡く意地汚い思考を持つ男は一体全体、“港倉庫街”の何処にいる。


そして仲間は……人質は……ココロと帆奈美は。


(人質は救出隊に任せれば大丈夫だろうけど……無事でいてくれよ。ココロ。ケイがマジで心配しているんだからな、思い詰めているんだからな。
テメェを守れなかったことに後悔してもし切れないほど、あいつは悔いているんだ)


願わずにはいられない。大事な仲間の安否を。

舎弟のためにも、彼女にはどうか無事でいて欲しい。


不思議なもので舎弟の顔を見るだけで、ある程度自分は彼の気持ちを察するようになった。

舎弟との付き合いは浅い方だと言える。



けれど月日以上に、これまで自分達は喧嘩や事件を通して絆を深めていった。


小学時代の旧友など下手に長い付き合いを送った輩よりも絆は深いと思う。


だからこそ願うのだ。

助け出されたら真っ先に舎弟に笑顔を向けて欲しい。


それだけできっと舎弟は救われるに違いないのだから。



それから、もう一人の人質のことは――。



ヨウは軽くかぶりを振り、一呼吸。


早く助け出して戻してやろう、彼女を大事にしている彼のもとに。


それが元セフレにできる元セフレへの精一杯の行為であり、今表せる好意だ。


非常に悔しいが臍(ほぞ)を固めるしかない。

ヤマトの彼女を想う気持ちを目の当たりにしたら、これまでなあなあにして曖昧にしてきた気持ちを固めるしかないではないか。


その前に少しだけ彼女と言葉を交わしておきたい。

なんて思うのは自分の我が儘だろうか。


大体向こうは狡いのだ。

キザ紛いに彼女の気持ちを優先にして、己の気持ちを隠す。

何よりも彼女の意思に委ねて自分の気持ちを吐露することもせず、常に見守る立ち位置をキープ。


彼女が“とある男”の下に戻りたいと言い易いように環境を作っておく。


強い好意を寄せているくせに、オンナの気持ちを何よりも優先にしているなんてカッコつけ過ぎであり、カッコ良過ぎではないか。自分の立場はガタ落ちではないか。


嗚呼、本当に狡い。

彼女を引き込んだなら強引に自分のオンナにしてしまえばいいのに。


そうしてくれたら、自分はもっと二人をストレートに憎めただろう。

それをしなかったのは向こうの配慮なのか、それともヤマトのオンナに対する心遣いなのか。


しかし、おおもとの原因は自分だとヨウは自嘲を零した。


あの日あの時あの瞬間、過ごしていた幼い中学時代の日々の中で、ちゃんと彼女に気持ちを伝えていなかったのが悪いのだから。


言わなくても分かるだろう、では駄目だったのだ。


結局のところ彼女は大きな不安を抱き、グループ分裂にも顔を渋めていた。陰で何度も泣かせていたのかもしれない。