【港倉庫街―正門―】



斬り込み隊指揮官の役目を任されたヨウは、まず正門に見張り等がいないかどうか目配りで確かめる。


どうやら敵柄は港倉庫街奥に潜んでいるらしく、正門付近にはいないようだ。


とはいうものの、港の倉庫街はとにもかくにもだだっ広い。


並列に佇んでいる倉庫だけでなく流石は港というだけあって、金属製の組立式容器つまりコンテナが積み上げられており道を阻んでいる。


更に時刻は夜、攻め込むに当たって奇襲を掛けるには打ってつけの刻ではあるものの、視界が悪いという点では此方にも不利。


地形もあまり把握できておらず、向こうの戦力もどのように配置されているのか見当もつかない。


まさしく特攻を仕掛ける自分達のやることは、良く言えば奇襲であるが、悪く言えばやけっぱち行為である。


だからと言ってもう後には引けぬ状況下だ。  


ヨウは面子が揃ったことを確認すると、携帯を取り出して連絡を取る。


相手はインテリ不良であり連絡係りのハジメ。


今すぐ乗り込みたいところだが、なにぶんまだ協定チームが揃っていない。

少人数の自分達が乗り込んでも向こうの協定に阻まれて泣きを見るであろう。


「ハジメ、俺だ」


コールが繋がったヨウは早速協定チーム達に動いてもらうよう頼む。

なるべくは二チームと共に乗り込みたいのだから。


するとハジメ、自分達の連絡を待っていたのだとばかりに返事をしてきた。


『ヨウ達よりも後に乗り込んでも意味が無いからね。
君が連絡をしてくると同時に、僕は向こうチームに弥生に借りた携帯で連絡を入れた。待機してある場所からして三分も掛からない。すぐに準備をして』


「オーケー。さすがハジメだぜ、感謝するよ。その手回しの速さ」

『一時離脱組の僕に出来ることはこれくらいだからね。くれぐれも油断はしないように』


「分かっているよ」


素早く携帯の電源を押して電話を切る。

次に仲間内にこのことを伝達。

すぐに協定二チームが乗り込んでくるから、その旨を口頭で伝えると玉城双子兄弟がワクワクするとばかりに口を揃えた。


ケイが紅白饅頭不良と胸内で呼んでるあの双子不良である。



「やーっぱ喧嘩しないとね、ゆっちゃん! 話し合いバッカじゃだれる!」

「だよなぁ、あっちゃん! んでもって喧嘩する時は二人揃ってやらないとなぁ! あっちゃんとオレがいれば、オトモダチフレーズが成立だし!」



忘れられているかもしれないが、紅頭不良が玉城 愛海(たましろ あいみ)、白頭不良が玉城 勇気(たましろ ゆうき)という名を持っている。


この二人、名前を取って愛と勇気だけがお友達……と空飛ぶあんぱんヒーローのオトモダチフレーズを口ずさんでいるわけなのだが、まったくもって悪ノリをかましている。

テンションアゲアゲにして、


「あっちゃん!」


バイクを運転する勇気が後ろに乗っている愛海に対しハイタッチ。


「ゆっちゃん!」


ハイタッチした愛海が僕達最強兄弟だと満面の笑顔で綻んだ。



「「僕(オレ)達、愛と勇気だけがお友達な孤独不良戦士! 最強だふー!」」



この新手の悪ノリ……ついていけねぇんだけど。

ポカンとしていたヨウは勘弁してくれとばかりに溜息をつく。


なんなんだ、この双子不良。

妙に疲れるというか、この悪ノリはワタルやアキラに近いものを感じるのだが。


「おいテメェ等。ちったぁ緊張感を持て」


双子不良に言えば揃ってイーッと舌を出してきた。


「「僕(オレ)達最強なのだ!」」


ピキッのカッチン、である。


「なんか分かんねぇけどぶっ飛ばしてイイか? イイよな? うざってぇこいつ等を殴り飛ばしても……罰当たらねぇよな」

「ふぁ~…ねむ。ヨウ、お前が取り乱してどーする。落ち着け」

「そりゃそうだけどシズッ。こいつ等うぜぇっ、ヤマトが仲間に引き込んだだけあってマージうっぜぇんだけどっ」


「「そういう荒川の仲間ってみーんなアタマ悪そう! ギャハハハッ、バーカバーカ!」」


カッチンのブッチン、である。

「奴等に焼きを入れてやる」

パキパキッと両手の関節を鳴らすヨウに落ち着けとシズは溜息。



なんで此処まできて仲間割れをしなければならないのだ。



これでは計画もヘッタクレもないではないか。子供の戯言だと思えばいい、副の助言にヨウは舌を鳴らして頷く。


余所でぶふっと噴き出し、バイクのハンドルに寄り掛かって笑いを堪えていたのは向こうチームの副頭ススム(斎藤)だ。