「(あれは俺が中一の頃だ。キャツや仲間と喧嘩に行ったんだが……その場所はでっけぇ公園でな。犬を散歩させる飼い主もチラホラいたんだ。

そこはでっけぇ公園だったからリードを外して自由に遊ばせる飼い主もいた。


別になんてことねぇよな?


けど、犬が放されていると分かった時点でヤマトの顔色が変わった。

めっちゃくちゃド不機嫌になったわけだ。

当時、俺達はなんで不機嫌になっていたか分からなかったんだけど、ククッ……ヤマト、犬がすこぶる駄目みてぇでな。

放されている犬の中にゴールデンレトリバーがいたんだけど、その犬が寄って来た途端、硬直。くしゃみ連発。

『あっちいけ』とか怒鳴るんだけど、どうも犬に好かれる体質みてぇでな。

ゴールデンレトリバーはヤマトに遊んでもらいたくて、そのままヤマトに二足直立。


ヤマトは驚きかえってゴールデンレトリバーにプレスされたという。


その間、『退け!』犬相手に怒鳴り散らす、くしゃみは連発するわ、顔は引き攣らせているわ。べろっと顔を舐められた途端、体を硬直させて身震いはしているわ。

俺等はもう大爆笑。天下の日賀野大和が犬相手に奮闘しているなんてっ、もう笑い話だろ!)」



なんだって?

あのジャイアンが犬駄目人間? 本当かよそれ。


「(ククッ、チワワも駄目なんだぞっ、あいつ。吠えられたら顔には出さねぇが、超ビビるんだぞっ。どうだケイ? そんな男でも怖いか?)」

「(マジかよ……それってガチ話?)」


「(ガチもガチ! あ、噂をすりゃ、ほらそこに犬が)」


石段を降りた俺達の前に、散歩連れなのかリードに繋がれた犬が三匹。黒のラブラドールにダックスフント二匹。


くっしゅん。

小さなくしゃみをする日賀野は犬が近くにいると分かったのか、ぎこちなく犬を見て硬直。


顔には出してないけど、あからさま犬に拒絶反応を示している。


健太は血相を変え、彼に一旦石段に上るよう日賀野に指示するけれど、それよりも先に犬が動いた。


キラキラした円らな眼を三匹が三匹とも日賀野に向けて、へっへっへっ、はっはっはっ、ブンブンと尾を振って遊んで遊んで構ってモード。


「マジかよ……ふざけるなよ、来るなよ」


日賀野の呟きは犬たちに届かず、飼い主から離れて青メッシュ不良に猪突猛進。


必死に飼い主は阻止しようとリードを引っ張っているけれど、飼い主のお姉さんの力では三匹の力を止めることはできなかったようだ。


空しくもリードを手放してしまう。


ということは? 嫌でも犬達は日賀野の下に来るわけで?


キャンキャン吠えながらダックスフント二匹は、日賀野の足元に擦り寄り、ラブラドールにいたっては二足直立。日賀野の体にべったーっとくっ付いた。

家政婦は見ていないけど、田山圭太は見てしまった。


べったーっとラブラドールがくっ付く際の日賀野の顔。


明らかにキャツの顔は強張っていた。

もしもニンゲンに尻尾があれば、全身の毛が逆立っているんじゃないか?


そう思うほど日賀野の表情は硬くなっていた。


「こいつ等ッ、なんで寄って集って俺に来るんだよッ、くしゅんっ! 犬の分際でっ、くっしゅん! あ゛ーくそっ!」


くっしゅん、くっしゅんっ、くっしゅん――!


盛大なくしゃみを連発しつつ、


「離れろ!」


日賀野は必死に犬達と格闘。犬達、素知らぬ顔で構ってモード。


健太は一生懸命、ダックスフントを二匹捕まえて、飼い主の下に返している。