青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―





ようやく纏まりを見せ始めた両チームが話し合いを始めて約二時間。



一旦、休みを取るために各々で一息。

俺も一休みを取るために神社裏から表に回った。


皆、裏に溜まっているから表には人気が無い。


シンと静まり返っている空間が俺の心を落ち着かせる。


取り出した携帯のディスプレイで時間を確認。


12時半か。

昼時だけどココロは飯を食っているかな。

軟禁されているであろう彼女のことを想うと胸が締め付けられる。


直ぐに迎えに行く、そう言ってもう40時間以上が経過している。


辛いな。

彼女に会えない日々も、助けに行けないもどかしさも酷く辛い。


溜息をつくと、神社の鳥居付近の神木前に立った。


ひっそりと天に伸びている神木を見上げる。

サワサワと揺れている木の葉達に目を眇めて、俺は肩の力を抜いた。


大丈夫、ココロは弱い女の子じゃない。

怖い思いをしているだろうけれど、簡単に屈する女の子じゃない。じゃないんだ。大丈夫、俺はココロを信じている。



ふっ、と煙草の香りが隣から漂ってきた。


それはヨウが吸っている煙草の香りとはまた別の香り。

ワタルさんや響子さんが吸っている煙草の香りともまた違う。


ゆっくりと視線を流す。

そこに立っていたのはダークブラウンに髪を染めている不良くんの健太。


いつの間に肩を並べて立ってたんだろう。神木を見上げてスパスパと煙草を吸っている。



久々だな。健太と二人きりになるのって。

決戦以降、何度か顔は合わせたけれど、周囲には必ず人がいた。


二人だけで水入らず、は久々だと思う。


神木に視線を戻し、


「怪我は大丈夫か?」


俺は当たり障りの無い話題を切り出した。


相槌を打つ健太は同じ質問を返してくる。


それなりに、答を返して俺は苦笑を零す。


あの時はズタボロにされたな、なんて苦味のある台詞を噛み締めながら。


やっぱり相槌を打つ健太は、俺と同じ表情を零して灰を地に落とす。


「まあ、そのおかげさまで……荒川チームと手を組むことになったけどな。
圭太、変な感じだな。あれだけいがみ合っていたおれ達が、こうして協力しているんだぜ? 何だったんだろうな、あの決戦。仕切りなおしなのかなぁ」


「さあ、これが終われば、またぶつかるかもな。無事に五十嵐との衝突が終わればな。無事に終わってくれたらイイケドな」



「無事に……ねぇ。また病院送りかも」

「今度は同じ病室だといいな。無事に終われば、それもないんだろーけど」


もしもタイムリミットを迎えてしまったら、敗北してしまったらココロは、ココロは――。


やっべぇ、どーして人間ってすぐにネガティブになっちまうんだろうな。

ポジティブにならないといけないのは分かっているのに、ふっとした拍子にネガティブが発生。

暗い方向に考えた方が人間って気が楽だから、そうやってすぐにネガティブになっちまうんだろうな。ニンゲンって厄介。


情けない面を浮かべていたのだろう。


健太が気遣うように言葉を投げかけてくる。


「心中察するよ。お前はおれ等以上に苦境に立たされているもんな。お前を見ているとヤマトさんを見ているようで……なんだかなぁになる」


日賀野の名前に、思わず表情を強張らせてしまう。


だけどすぐに表情を戻して、「そっか」小さく相槌を打った。


日賀野もセフレの帆奈美さんを人質に取られているんだっけ。


でも不安は一切見せないよな。

ヨウも帆奈美さんに想うことはあるみたいだけど、あんまり面には出していない。

日賀野はもっと出していない。

不安じゃないことはないだろうけれど、俺と違って二人は強いのだと思う。


率直な意見を漏らせば、


「まさか!」


健太は俺の意見を全否定してきた。