青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「まずはそれを開けて口に入れる」



言われるがまま包装紙を取って、口にガムを押し込む。


「よく噛む」

命じられるがまま咀嚼をする。


「味は?」「みんと」「俺の名前は?」「荒川庸一」「お前は?」「田山圭太」


よしよし、ヨウは少しは落ち着いただろうと一笑を零す。


「いいかケイ。確かにあれはジャイアンでテメェを苛めてばっかりだが、よーく見ろ。ただの態度と口がでけぇ不良だ。そう、あいつはただの人間なんだよ! あいつは小物だ!」


そのただの人間にやられたのが、小物の田山圭太なんですけどね!

目をうるうるさせているへっぴり腰に、


「お兄ちゃんが後で迎えに来てやらぁ!」

「ほんとか?」


「お兄ちゃんは嘘なんてつかねぇよ」


ヨウは人の頭をわしわし撫でると背中を押して日賀野に俺を差し出す。


「て、ことだ。ヤマト、ケイは一応テメェに預けるけど、あんまりこいつを苛めると使いものになんねぇから宜しく。
おらケイご挨拶。ガムを噛んだから言えるだろ? テメェを預かってくれる不良お兄ちゃんにご挨拶」


「よ……よろじぐおねがいじまず」


「よーし言えたな。偉いえらい」



「……俺はこれからガキを預かる保育士か」



さすがの日賀野も舎兄弟の阿呆なやり取りにツッコミを入れるしかなかったようだ。




かくして日賀野が指揮する本隊に配属された俺は、ヨウ率いる斬り込み隊に未練たらたらのまま話し合いに参加する。


まあ大丈夫。


ヨウが言うように日賀野はただのジャイアン不良なだけであって、俺と同い年の人間。男田山圭太、ココロ救出のためにトラウマを克服してやらぁ!


そうだ、いつもいつでもいつまでも日賀野に怖がっていると思ったら大間違いなんだ! そう、大間違いなんだ!


「なあ……圭太、ヤマトさんは優しい人だから大丈夫だって。ちょっと悪ふざけを仕掛けてくるだけだから……アーおれに貼り付くのやめてくれるか?」

「う、煩い。俺は自分と闘っているんだ。じゃ、邪魔するな!」


意気込みもむなしく、俺はガタガタブルブルで健太の背中に貼りついていたという。


ナニ、臆病? 腰抜け? 意気地なし?


どうとでも言うがイイ!


怖いもんは怖いんだ!

人間ってのはなぁ、正直に生きてこそ輝く人生だろ!


俺は正直に素直に有りの儘に、怖い気持ちを此処で曝け出す!


俺って誰よりも正直者!


本隊と救出隊が全員揃うや否や、日賀野は指揮官として早速グループ集会を開始。

事細かな動きを念密に打ち合わせ始めた。

斬り込み隊はとにもかくにも真正面から突っ込んで混乱を招くよう暴れるだけ。


持久戦になるだろうから、どう体力を持たせるよう話し合えばいいけど本隊はそうはいかない。

現状と向こうの戦力、戦闘形態を把握して裏から挟み撃ちにしないといけないんだから。


更に救出隊はそれを前提に倉庫に回って人質を救出しないといけない。無駄な動きはなるべく省いておきたい寸法だ。



「取り敢えず当時の動きはこれでいいが、イマイチ向こうの動きが分からずじまいだからな。斬り込むまでの動きに下手なことはできねぇ。
いいか、貴様等。五十嵐の動きが現段階で読めない以上、極力は動きを最小限にしろ。この作戦がばれたら元も子もねぇ」



散々俺を弄くってくれる日賀野だけど、リーダーとしてのカリスマ性はピカイチだ。


俺達が苦戦を強いられただけあって、本隊リーダーの頭の回りようはパない。


小さなところも見落とさず、インテリ不良や俺等に意見を求めて作戦や動きを組み立てていく。

そのカリスマ性だけには敬意を払いたいと思ったよマジで。性格は最悪だけど。