青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「プレインボーイは本隊に入れるに決まっているだろうが。なにせこいつは土地勘、チャリの腕に長けている。プレインボーイは俺と行動してもらう」


「お、俺と……って?」


「そりゃ勿論、意味はそのまんま。なー? プレインボーイ。後ろに乗せてくれるよな?」


日賀野大和が俺のチャリの後ろに乗ってくる、だと?


目の前は真っ暗になりそうだった。


ちょ、ちょちょちょっ、なんの試練? なんの試練なわけ?!


まさかの事態、緊急事態っ、日賀野大和が俺のチャリの後ろに乗ってくるとか乗ってくるとか乗ってくるとかっ!


な、泣きたいっ、ぬぁあああああっ、俺は泣きたいぞぉおおおお! 


ガッチンゴッチンに体を硬直、ぎこちなく足が一歩いっぽ後退を始める。


「おーっと」


日賀野が逃げる俺の体を引き戻して、肩に腕を乗せてきた。お、重いっ。


「逃げるなんてナンセンスだろうプレインボーイ。まさか乗せてくれねぇとか、馬鹿なことほざくわけじゃねえよな?」

「へ、へへっ。まさか! よ、喜んで……あはははっ」


チクショウ、半泣きだぞ。おりゃあ半泣きだぞ!


「だよなぁ」


にやりと笑う日賀野に田山圭太は情けなく首を上下に振る。

完全に逃げ腰だけど、これは生理現象だ。


仕方が無いだろーよ!

こいつにフルボッコをされちまったんだぞ!

トラウマになるなって方が無理だろ!


「プレインボーイはヤサシーからなぁ? そーんな馬鹿を言うわけねぇもんな?」

「へ、へへ」



「乗せてくれるもんなー?」

「く、くれるです!」


「喜んで乗せてくれるもんなー?」

「よ、喜んで乗せるです!」


「舎弟になってくれるもんなー?」

「は、はい! 舎弟になりますです!」


「イイ返事だ。じゃ、今の舎兄にバイバイしろ。はい、バイバイ」

「ははっ、ヨウばいば、い……あっれー?」


もしかして乗せられた?

サーッと青褪める俺にキャツは一笑し、


「男に二言ねぇよな? 今、舎弟になるって言ったよなぁ?」


ニッコリニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてくる。

完全に半泣き、いやマジ泣き一歩手前の俺は意味不明な奇声を上げながらトンズラ。泣き喚きながらヨウの後ろへ隠れた。


ははっ、俺、ダッセェ! けっど怖ぇ! ガチコワっ! ついでにこの人、ほんっと嫌い! イタイケな地味ボーイを苛めるなんてさぁ!


大体苦手なんだよ、日賀野大和。

フルボッコという行為は五十嵐にもされちまったけど、断然トラウマにしてるのは前者。

キャツはフルボッコプラス、毎度人にちょっかい出してくるから完全に俺の苦手な類(たぐい)になっちまったわけだ。


単なるフルボッコなら、ある程度の時期が来れば俺も立ち直れるけれど、立ち直る前にこいつが一々々々ちょっかいを出すからトラウマに!


傷口に塩を塗るような行為をしてくるこいつは俺にとって生涯忘れられない天敵になっちまっている。


ブルブルに震えて、


「無理だ無理」


頭を抱えている俺の様子にヨウは眉間に皺を寄せる。


「おいヤマト、ケイを苛めてんじゃねえよ。ぜってぇ楽しんでるだろ? あんま出過ぎたマネすると……舎兄が黙っちゃねえぞ」

「ッハ。苛めているんじゃなくて、可愛がって(結局は苛めて)いるんだよ。ま、俺とこいつのコミュニケーションだな」


何がコミュニケーション! お前と俺に友情はねぇぞ!

けれどヨウも俺も分かっている。


田山圭太がどこの部隊に入るのが適任なのか。


だから俺は半べそだし、ヨウは溜息を零す。

舎兄はブレザーのポケットから封の切ってあるチューインガムを取り出し、一枚を俺の手の平にのせた。