「どーせ相手は底知れぬ悪知恵の持ち主だ。
『漁夫の利』作戦はもうきかないし、また悪知恵で挑もうとしてくるんじゃないかと警戒心を抱いているに違いねぇ。
んじゃ、真っ向勝負でいってみるってのはどうだ?
あ、意見は最後に聞くからまあ聞けって。途中で口を挟まれると俺も混乱する。
まず二手に分かれるんだ。
真っ向から乗り込む斬り込み隊と、裏から回って最後に真っ向勝負する本隊の二つに分かれる。邪魔者の協定チームはこっちの協定チームに協力してもらってかく乱してもらう。
きっと五十嵐のことだから、俺達が悪巧みを持って挑んでくると思っているに違いねぇ。
過去を振り返るとそう思っても仕方が無いだろうし。
だったら裏を掻いて真っ向から勝負を挑み、あいつを混乱させる。
それが斬り込み隊の役目だ。
本隊は裏に回ってまず人質救出。最後に斬り込み隊と合流してどどーんと勝利をおさめる。
乗り込み作戦っていうより、挟み撃ち作戦だなこれ。
とにかく人質の救出が最重視されているんだ。人質を救出しねぇと、向こうの決めたルールに俺等も束縛されるまま。
打破するためには二手に分かれて一手は混乱、一手は救出に動くしかねぇと俺は思うんだ。
斬り込み隊は危険極まりねぇが……なにも乗り込んで伸すだけが斬り込み隊の仕事じゃねえ。
時には逃げて相手の油断を誘うことも大切だと思う。
向こうの動きが読めない以上、俺達も読めない動きをして向こうを混乱させるんだ。
俺が五十嵐だったら、まさか馬鹿みたいに真っ向から乗り込んでくるなんざ思わねぇし。
本隊と斬り込み隊の連絡はバイクのホーンでやり取りする、という感じだ……質問等は?」
やばい、俺は泣きそうだぞ。
ヨウが、あのヨウが知的に発言しているなんて!
お前も成長したよな。
舎弟として誇らしいぞ!
「なるほどな。荒川にしては気色悪いほど知的な作戦だが問題が二つ。
一つは人質を救出する本隊の存在がばれる可能性があるってことだ。
基本はバイク移動、エンジン音で人質救出する本隊がばれたら、人質が移動される可能性もある。
もう一つは人質の救出にどれほど時間を要するかってことだ。斬り込み隊にも体力的に限度がある。長引けば危険だ」
「確かにな。けど最初の問題は、さほど重視しなくても大丈夫だと俺は思うけどな」
だって別にバイク移動だけが手段じゃないだろ。
ヨウはチャリを使えば良いじゃないかと大真面目に意見。
「チャリ?」
喧嘩にチャリを持ち出す馬鹿が何処にいる、日賀野が眉根を寄せた。
あー此処に居ちゃったりするんだけどなぁ……何故だか肩身が狭いぞ。
「結構使えるって」
ヨウは訝しげな眼を投げている日賀野に、チャリ手段のメリットを出した。
「バイクっつーのはスピードがある分、簡単には方向転換が利かない。
俺はずっと舎弟のチャリに乗っているから分かるんだけど、チャリの方が幾分方向転換が利き易い。
裏道に入りゃこっちのもんだし、何より音が少ない。エンジン音で気付かれる可能性は小さいぜ。
更に斬り込み隊のバイク音でチャリの音なんざ一抹も聞こえねぇに違いない」
チャリを使う価値は十二分にある。ヨウは断言した。
確かに、一つ頷く日賀野は今の作戦に異論等ある奴はいるかと投げ掛ける。
異議なし。
時間も無いしそれでいこう。
早速作戦の手直しが始まる。
「斬り込み隊と本隊は肯定でいい。
二つ目の問題は別枠で人質救出の一隊を設ける。
斬り込み隊は手腕のある奴等を多めに入れる。
この一隊はなるべく向こうのペースを掻き乱すよう真っ向から仕掛けていくでいいな。
一方の本隊は裏から回って挟み撃ち合流。ただ裏を回るじゃ芸がねぇ。
裏からなるべく向こうの戦闘スタイルと現状を把握するために、探りを入れつつ合流でいくぞ。
救出する一隊は同じく裏から回って気付かれないよう動く。
最初こそ本隊と共に動くが、後から枝分かれして人質の所在を掴む。
人質解放後は本腰を入れて潰しに掛かる。これでいきてぇが何か意見はあるか?」
「意見はねぇけど……すげぇな。俺の思い付き作戦を此処まで仕立て上げるなんざ、感心だ。感心」
日賀野の知性に対して素直に褒めを口にするヨウだけど、ハッと弾かれたように手を叩いて相手リーダーに異議申し立てをする。
「ヤマト、斬り込み隊と本隊には指揮官がいる。どっちがどっちに就くかは謂わずも、だろ? 俺はテメェほど頭が回らねぇ。本隊の行動すべき戦闘スタイルと現状を把握は俺にとって重荷だ」
「願ってもねぇことだな。ただの真っ向勝負なんざあんま俺のスタイルに合わない。が、挟み撃ち作戦なら俺のスタイルに合う。本隊は俺が指揮する」
決まりだと二人はシニカルに笑い、早速三つにグループを分けようと仲間達に指示を出し始める。
直球型不良のヨウが斬り込み隊の指揮、変化球型不良の日賀野が本隊の指揮、か。
何だかすっげぇな。
二人は正反対の戦闘スタイル・考えを持っていて、折り合いがつかないことが多いのに……こうして自分達の得意分野を如何なく発揮して協力をし合う。ほんとうに凄いことだ。



