しかし性悪女はフフンと鼻を鳴らし、


「五十嵐の女になれば? そしたら愛しい彼、助かるかもよ?」


嘲笑する古渡に怖じることなく素っ気無く返した。


「それは私が決めること。貴方に言われる筋合いない」

「ふふっ、その強気、いつまで続くやら」


クツリと笑う古渡は、せいぜい今の内に強がっておくことだと一笑。

さっさと扉向こうに消える。


閉じられた扉に人の気配。

見張りが再び扉に立ったようだ。閉め切られた扉を見つめ、ココロは大きく溜息をつき自己嫌悪を噛み締める。


また何も言えなかった。 反論もできなかった。怯えることしかできなかった。


苛めっ子に完全に屈している自分がいる。


(強くなると決めたのに……)


深い溜息をついて膝を抱えていると、


「隣。いい?」


向こうに座っていた帆奈美から声を掛けられる。


彼女、帆奈美とはこの部屋に閉じ込められている間に随分と仲良くなった。


最初こそ敵チームだからと警戒心を募らせていたが(姉分とすこぶる仲が悪い)、乙女痛で悩まされている自分に薬をくれて甲斐甲斐しく世話をしてもらった。人質にされ怯えてしまっている自分を励ましてもくれた。


姉分とはまた違った姉分肌の帆奈美に今ではすっかり気を許し、仲良しさんとなっている。


帆奈美の問い掛けに、コックリとココロが首を縦に振る。


すると帆奈美は場所を移動。

隣に腰を下ろして、体を震わせている自分に大丈夫だと綻んできてくれた。


仲間がきっと助けに来てくれる、自分達は信じて待てば良い。

頼り甲斐のある台詞にココロもようやく笑みを零す。


うんっと頷き、古渡の放った台詞は忘れることにした。


大丈夫、仲間も彼氏も自分から離れて行かない。


いつだって傍にいてくれたのだ。

きっと、今頃血眼になって捜してくれているだろう。そういう人達なのだから。


それに彼氏が言ってくれたではないか。もう独りぼっちじゃない、と。


だから大丈夫、大丈夫なのだ。


あ、そういえばクッキー。

バス停に置いて来たけれど、あれはどうなったのだろう。彼に食べて欲しかったんだけれど。また焼けばいいかな。


「ココロ、さっきよりイイ顔。舎弟のことでも想っている?」

「あぅ……ち、ちが、違います「顔が赤い」あうっ……ちょっとだけ」


ううっ、糸も容易く見抜かれた。


頬を紅潮させるココロに、


「大事にしてくれる?」


微笑ましそうに質問。


とても大切にしてくれる、ココロは蚊の鳴くような声で呟く。


現状が現状なだけに二人で過ごす時間は少なく、他校同士で合う時間も限られている。

彼は大半を舎兄や仲間と過ごしているから、ちょっとだけ物足りない気持ちを抱いていた。


気持ちを疑っているわけではないが、好きという気持ちが不足していた。


けれど彼氏は気持ちを察してくれて自分を甘えさせてくれる。


軟禁される前日は我が家に遊びに来てくれたし、夜には体調を心配し電話も掛けてくれた。

思い出作りだと写メも撮ったし、キスもしてくれた。キツク抱き締めてもくれた。


何より彼は傍にいてくれる。凄く大事にされているのだろう。


そう思うと、彼が古渡の魔の手に掛かるとは思えない。否、自分のために行動を起こしそうで少し怖い。