『ああ、そうそう。途中リタイアも可能だぜ。ただし条件付きだがな』
「リタイア、か。俺等がするとは思えねぇが言ってみな?」
『その強がりが何処まで通じるだろうな。荒川……まあいい。説明してやる。途中リタイアには二つ手法がある。
一つ、お前のチームメートを全員こっちに吸収させてもらう条件。
以後、俺等に絶対服従を誓ってもらうぜ。どんなことをされても文句の言わせねぇ。奴隷的立場にいてもらう。
もう一つは古渡が出した条件、詳細は舎弟くんに聞け。
ま、簡略的に言うと一人の犠牲で人質を解放してやる。でもってゲームも終了。一人の犠牲でゲームエンド。
人質も解放される。素晴らしくねぇか?
どっちを選択するかはお前等次第だがな。
仲間意識が高いお前等のことだ。
大勢の仲間を助けるか、それとも一人を犠牲にするか、どっちが賢い選択肢か考えなくとも分かるよな? これは慈悲だ。どうだ、嬉しいか?』
「あーあーあー。激ありがてぇな。優しさに反吐が出そうだぜ」
嫌悪感にまみれたヨウの顔を一瞥し、モトが素っ頓狂な声を上げた。
「ケイ、古渡の条件って何だよ。オレ達に話してねぇじゃん!」
ぶーっと頬を膨らませて睨んでくるモトに、
「言っても無駄だと思った」
肩を竦めて一笑。
どうせ言っても皆許してくれない選択肢だからと口を噤むと、フザけるなと怒られてしまった。
仕方がないので正直に話すことにする。
「ま、簡単に言えば、俺が向こうに古渡の彼氏になりたいと身売りすりゃ終わるんだと。はぁー、モテ期に入ったのかなぁ。女の子に身売り条件を出される日がくるなんて」
「うぇえええっ! ケイさんが身売りィ?! そ、それだったら俺っちもォオオオ! 生きる時も死ぬ時もブラザーは一緒っスよぉおお! 身売りだって一緒にやってのけちゃいますからね、俺っち!」
いやいやキヨタ、何故そこで運命共同体?
そして君は誰に身売りするつもりだい?
「童貞じゃ無理むり」
条件を聞いたモトは心配して損したと悪態をついてくる。
クダラナイその選択肢は選ぶ日も来ない。
何故なら自分達が勝つのだから! 絶対に!
頼もしい中坊の一声に俺は頷いた。
そう、俺達は負けの喧嘩にもゲームにも興味はない。
だからこれから始まるゲームは勝つ気でいないと。
ココロは絶対に取り戻す。絶対に!
『ま、ヒントは基本的に一切ナシだが、ヤサシー俺はお前等にヒントを与えてやる。
けどタダっても癪だから? ヒントをある場所に置いてきた。探してみな? “ヒントのある場所は工事現場が見える小さな光の下”。さあ、始まりなう! 72ゲーム!』
お前等の絶望に染まる顔を楽しみにしている。
高笑いと同時に、「行け!」ヨウが声音を張ってチームに命令。各々バイクが飛び出して行く。
俺達は三手に分かれた。
一手は情報収集係り(弥生・タコ沢)、一手は協定チームの下(モト・響子さん)、残り一手は行き当たりバッタリ隊(舎兄弟・ワタルさん・シズ・キヨタ)。妨害その他を担当なんだぜ!
颯爽と俺のチャリの後ろに乗るヨウは残った面子にヒントを探すぞと指示。
“ヒントのある場所は工事現場が見える小さな光の下”ということは、まず工事現場を探り当てないといけないわけか。
工事現場と一口に言ってもこの近所は最近、マンション工事やら土木工事やら近所で頻繁にあっている。簡単に見つけ出すことは難しい。
舌を鳴らす俺は記憶を頼りに、「でかい工事現場から行ってみよう!」皆に意見する。



