合図を待つこと午後七時。
軽く一時間待ちぼうけを喰らっていた俺達の下に(こっちから電話しても電源を切っていたのか繋がらなかった)、ピピピピピ――運命の着信音。
赤ん坊の泣き声を耳にしたかのように、チームメートは着信音に肩を軽く弾ませて音源の方へと流し目。
代表してヨウが携帯に出る。
あらかじめスピーカーフォン設定に操作していたから、向こうの声はダダ漏れだった。
『元気なう?』
癪に障る男の声が聞こえてきた。主は五十嵐本人だ。
『傷は癒えたなう?』
重ねて癪な台詞を吐いてくる五十嵐に、「テメッ」ヨウは忌々しいとばかりに鼻を鳴らした。
さっさとゲームとやらを始めろ、唸り声を上げるリーダーをシズが落ち着くよう宥め、まず仲間は無事なのかと質問。
どうだろうな、飄々とした返答に俺は思わず握り拳を作る。
やけに心臓が鳴った。
高鳴って高鳴って口腔の水分が急速に失われていく。が、背中を思い切り叩かれて俺は我に返る。
痛みをそのままに顔を上げれば、え……なんでタコ沢が隣に。
普段から俺に敵意を向けているタコ沢だけど、今も仕方が無さそうに敵意を向けて、「正気に戻ったか?」なんて慰めらしき言葉。
「これからって時に、そんな顔されても足手纏いなんだゴラァ。そんな面じゃ雪辱を晴らす気にもならねぇ」
「タコ沢……いひゃっ!」
「た・に・ざ・わ、だ! 舐めたあだ名を口にしているんじゃねえ!」
両頬を容赦なく引っ張ってくるタコ沢にギブギブと白旗、「フン」鼻を鳴らして解放してくれる彼を見上げて俺は疑問を口にする。
「今回も手を貸してくれるのか?」と。
「仕方がないからな」
タコ沢は俺に視線を落として腕組み。
曰く、日賀野達を伸すまでは臨時メンバーになってくれるらしい。
でもこれは日賀野達のことじゃないのに……俺の呟きにまたタコ沢は鼻を鳴らした。
「決戦で水差されたんだ。借りを返すのが男だろーが。それにこれは俺の喧嘩でもある。ついでに貴様等にも手を貸してやるだけだ」
ぶっきら棒な言葉に棘はない。
呆気に取られていた俺は「ずっとメンバーならいいのにな」頭の後ろで腕を組んだ。
「抜けたら寂しいかも。普段は煩いけど」
しっかり皮肉を付け足して仲間だって認めている発言を投げる。
そしたらタコ沢は即答で「だあれが貴様等の仲間になるか」元々自分は一匹不良狼なのだと宣言。
いつまでもおちゃらけた奴等と仲間ごっこをして戯れあうなんてことするつもりはないらしい。が、この面子に思うこともあるらしい。
強制的に仲間に入れられたタコ沢は期待の眼を投げる俺に、「予想外だぜゴラァ」と不貞腐れている。
なんだか安心した。
これが終わってもお前はチームにいてくれそうだな。
雰囲気がそう物語ってくれている。
どうせ抜けても、ヨウのパシリくんに戻るだけなんだ。
だったらメンバーでいようぜ、な、タコ沢?
遠回しで不器用な励ましは俺に伝わってきたしさ。
こんなやり取りがあっている一方、ヨウとシズが五十嵐に仲間は無事なのかと繰り返している。
せせら笑うだけの五十嵐は仕方がなしに『無事じゃないとゲームに支障がでるだろ』
真偽が見えにくい。
腹の底が見えない回答だ。
けれど冷静を欠かさないよう、俺は深呼吸をする。
ヨウがメンバーに視線を投げると、物音を立てないよう静かに行動開始。
『さあてゲームを始めようじゃねえか。なうなう、準備OK? これから72時間以内にお仲間を取り返すシンプルゲームを。
あくまでお仲間を取り返すゲーム。見事お仲間を見つけ出す事が出来たら、お前等の勝ちだ。
タイムリミットは三日後の午後7時まで。
タイムオーバーしたらお前等の負け。あと全滅したらお前等の負けだ。負けたらお仲間はこっちの好きにさせてもらう』
メンバーは前もって倉庫に運んでおいた乗り物に跨る。俺は相変わらずチャリだ。



