「身売り……か、まさか男の俺にそんな災難が降りかかってくるなんてな」
土下座をして古渡の彼氏にして下さい、ココロとは別れるんで。
そんな馬鹿げた近未来が訪れるのかなぁ。
やりそうだ。
自己嫌悪してしまう。
仲間内にも話していない中断、放棄、降参条件を独り言として口にしていた俺だけど、ふと気配を感じ、微苦笑を零して立てた片膝を抱えた。
「無理だよなぁ」
ちょっと大きめに声音を出して、金網フェンスの向こうの路面を見つめた。
「ンな馬鹿なことしようとしても、皆から止められちまうよな。な? 兄貴」
俺はすぐ傍の窓辺に向かって意見を求めた。
倉庫内にいるであろう舎兄はきっと、窓枠に背中を預けて煙草をふかしている。
ほろ苦い香りが俺の鼻腔を擽ってきた。
「たりめぇだ。童貞くんが何、身売りなんざ言ってやがる。脱童貞してからそんなこと言え」
そんな悪態を付いてくる舎兄に泣き笑いして、「だよなぁ」俺は盛大に苦笑いを零す。
こうして止められるんだよ、馬鹿なことをしようとしたら。
俺達はチーム、誰かが間違いを犯そうとしたらそれを正そうとしてくる輩が出てくるんだよ。
今、誰よりも俺の背中を支えてくれているのは舎兄だから、きっと馬鹿な事をしようとしたら問答無用でヨーイチパンチを食らわせてくるに違いない。違いないんだ。
「怖いっつったら呆れるか?」
俺の本心に、「いや」舎兄は否定して同じ気持ちだと教えてくれる。
「ダチの誰が傷付いても怖ぇよ俺は。テメェや響子なら尚更だろ。呆れやしねぇよ」
「そっか……なら、良かった」
「身売りなんざしようとしたら、その時点で半殺し決定だからな。
ま、テメェに限ってンな馬鹿な事はしねぇだろうけどな。俺、テメェを信じているし?」
「ばか。平気でそんなことを言うなよ。いざって時に身売りできなくなるだろ?」
その気もないのに、俺はおどけ口調で返す。
向こうも気持ちを察しているのか、
「殴って止めてやるよ」
能天気に笑声を漏らしていた。
「一本いるか?」
未成年としてあるまじき煙草誘惑をしてくるヨウに、「ン」俺はノリ良く誘いに乗って木材から下りると、窓越しに火の点いた煙草を受け取る。
情けない顔をしているであろう俺に、舎兄はいつもどおり笑って額を小突いてきた。
「チームで動けばどーにかなる。全員で取り戻すぞ。テメェの大事なお姫さまをな」
ヨウはこうして折半してくれる、俺の暗いくらい気持ちを。
だから俺はヨウを含む仲間達を頼るんだと思う。自分の身のほどの小ささを知っているから。
卑屈になっているわけじゃないぞ?
極々普通の一般論だ。
俺一人じゃ集団には勝てない。
ココロも取り戻せない。
一人じゃ無理だって分かっている。
「不良だよなぁ俺。立派に煙草なんて吸えちゃって……ヘビースモーカーになったらどうしよう」
煙草を銜えと「ワルに染まったってことで観念しろ」現実を受け入れるよう舎兄は肩を竦める。
地味不良だろーが、なんて頭小突いてくるヨウに俺は感謝した。不安を払拭してくれるヨウにとても感謝した。



