青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




倉庫内に戻った俺は幾分落ち着きを取り戻しつつ、自分の身の上に降りかかった状況を仲間に話さなければいけない現実に胃が重たくなっていた。


だけど、古渡の出してきたゲームもあるために、黙秘するわけにもいかない。


戻るや否や、首を長くして待っていた仲間達に早速電話の一件を話す。


まず俺とココロの関係が古渡に狙われたことを告白。


弥生とハジメの時のようにチームメートの仲を引き裂きたい半分、残りは半分は小中時代にココロを苛めていた嗜虐心が狙われた要因として挙げられる旨を伝える。


次に俺自身が“荒川庸一”の舎弟であるがゆえに、別れ話を突き付けられたことを告白。

二者択一を迫られたことも惜しみなく白状した。


皆の反応が怖かったけれど思いの他、チームメートは怒りの矛先を古渡一点に向けてくれた。


こういう風にチームメートに恐怖と疑心を抱いていた時点で俺もまだまだだと思う。

もう少し、皆を信用しないとな。うん。



「ケイさんの恋人にしろとか不届き千万っスね! 身の程を知ってから物申せって話っス! ケイさんの男の中の男の魅力は、確かに男の俺っちでも惚れてしまいそうです。

いやぁ、分かるっス。惚れちまうのは。
男気はありますし、笑顔が爽やか、俺についてこいオーラがまたカックイイ。

美化してないか? ノンノンノン。ケイさんの心は誰よりもイケメンなんっス!」



……皆をもう少し。




「ケイさんにはココロさんって彼女がいるっスよ! 寝取ろうなんて百年も千年も万年も早いっス! ケイさんのお初はココロさんって決まっ「キヨタっ、それ以上のフォローは心に留めておいてくれ! 気持ちだけ受け取っとくから!」



立ち上がって(嘘)田山伝説を熱弁してくれる弟分の口を手で塞ぎ、俺は必死に言葉を制した。


まだ言い足りないとばかりに、うぐうぐ、もごもご、むーむー、なんかキヨタが言っているけど、いやいやいや、お前のフォローは過激なんだよ! 熱過ぎて聞いているこっちが羞恥心噛み締めるよ!


俺の心がイケメン? フッ、馬鹿だな。

誰だって妄想じゃイケメソになれるんだぜ!


だからこそ人はイケメソ自分を思い描く行為を“妄想”と呼ぶんだ!


熱弁しようとするキヨタを無理やり座らせて、俺はゴッホンと咳払い。


「そういうことなんだ」


一先ず、話に一区切りつけた。

途端に響子さんと弥生がズンっと俺に詰め寄って来る。


弥生はともかく、響子さんには張り手を食らう覚悟を抱いたのだけれど、彼女達は目を細めて各々俺の胸倉を掴んで大きく揺すってきた。


ぬぁあああっ、勢いっ、勢いで脳天がぐわんぐわん揺れる!


「ケィイイ! なんでその電話の時にうちを呼ばなかったァアアアア! 妹分を攫ったのはあんのクソアマなんだなっ! ケイっ、よく向こうの要求を呑まなかった。
そりゃ褒めるがうちにもあの女と話させやがれアアアアアアアア! ムカつくっ!」


「どぉおおおおして私を呼んでくれなかったのぉおおっ!
あの女狐が電話ふっふっふっ、あっはっはっはっ! ココロにまで手ぇ出すなんてフッザけているよねぇええ!」


バッと二人が俺の胸倉から手を放して(あへぇっと情けなく目を回す俺にキヨタ「し、しっかりして下さい!」)、こめかみに青筋を立てると血管が浮き出るほど握り拳を作って腰を上げた。


「ココロに手ぇ出す女か。もう容赦してやんねぇぜ」


姉分の響子さん。


「ハジメの仇。友達にまで手を出すなんてもう許さない」


仇討に燃える弥生。


二人は轟々メラメラと燃えていた。

黒い笑みを浮かべながら、これまた黒い炎という名のオーラを身に纏わせ、顔の筋肉を引き攣らせて鼻息を荒くしている。


その姿は鬼、阿修羅、もしくは般若。


とにもかくにも女の憤りほど怖いものはなかった。

仲間といえど、さすがの俺達でも……二人の憤りにやや引き気味。


「こわっ……」


ワタルさんの一言に、ギッと眼光を鋭くする女子二人。

今なら目からビームが出ても不思議じゃないと思う。

寧ろ出る方が自然。それだけ二人の眼光が怖かった。


さすがのワタルさんも愛想笑いを浮かべつつ降参ポーズの両手万歳。女って怖いな、ガチ話。