青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




だけどな、ヨウ。

俺は馬鹿だから向こうの言いなりになんてなりたくなかった。

悔しかった。

俺もココロも利用されるなんて真っ平ごめんだったんだ。


地味だってプライドがあるから。


「断っちまった。古渡の出した条件を断っちまったんだよ。ヨウ。ごめん、ココロを解放できるチャンスが……ほんっと俺、馬鹿だから……断っちまった。ココロもチームも大事だから」


「馬鹿。なんで謝るんだ。よく断った。ケイ……よく断った」


小刻みに震える俺の頭を軽く片腕で絞め、クシャッと手を置いて「よく断った」舎兄は情けないチームメートを優しく励ましてくれる。


「俺はちっとも……変わっていないな」


声音の芯から震える俺は自分の不甲斐なさを呪った。

どうして俺ってこうなんだろう。ヨウの地味くん舎弟だからって狙われて、目ぇ付けられやすくて、利用されそうになってバッカで。


利二の時といい、ココロの時といい、誰かに頼らないと事も解決できない。


利二の時も、俺が強かったら日賀野を打ち負かして(もしくは唆して)友達を怪我させられずに済んだかもしれない。ヨウ達が出動せずに済んだのに。


今回だって俺が強かったら、ココロを今すぐにでも……嗚呼、彼女一人取り返すことができないなんて。


自己嫌悪に陥る俺だったけど、まだ話は終わっていないから舎兄に洗い浚い白状することにした。


「勝手に古渡の出したゲームに乗っちまった。
人質を懸けたゲームに乗っちまった。ごめん、ヨウ。ほんとごめん。勝手なことをしたのは分かっている。

でも、これしか方法なくって。俺とココロは大人しいから……狙われやすくてさ。チームにこんなにも迷惑を掛けてしまう。古渡はココロを弄くりたいんだ。苛め倒したいんだ。

だから俺にあんな条件を出した。
地味凡人の俺を寝取って何が楽しんだろうな。

誰彼セックスしたいのかよ。
俺はヨウみたいにイケメンじゃないのに、童貞くんなのに!


きっとココロは傷付く。俺の独断じゃきっとっ……どっちを選んでも傷付くことには変わらないんだけどさ。
ココロは弱い女の子じゃないから、悪いけどこの選択肢を取らせてもらったんだ。ヨウ、手を貸してくれ」


俺はあの時からちっとも成長していないな。


こうも易々と利用にされそうになるなんてごめん、毎度の如く迷惑掛けてごめん。ごめんリーダー。ヨウ、ごめん。つくづく自分に嫌気が差すよ。


でもな、敢えて一つ、俺は勇気を出したんだ。


どんな勇気か?

それは身の程を十二分に理解して上で、仲間に頼る勇気を持ったことだ。利二の時は俺、ヨウ達に極力頼らなかった。

へこへこ頭を下げながら頼るなんて向こうにとって迷惑だと思っていたし、俺の中でどーせ不良だからと冷めた気持ちが心の片隅にあった。


人種が違うから一線も二線も引いちまう俺、自分から不良と溝を作る俺がいたんだ。


そんな俺がこうしてヨウ達に力を貸して欲しいと頼む。

それは仲間の力を買っているのと、大きな信頼を寄せているのと、それから心配を掛けたくない気持ちから。


心配を掛けるな、迷惑を掛けろ。

何度も奴等に教えてもらったし学んだ。


だから俺は変に「地味だから」という片意地をや捨て仲間に頼る。


それもまた一つの勇気なんだと俺は思うんだ。


謝罪を繰り返す俺に、

「これでいいんだ」

ヨウははっきりと俺の判断を肯定。

逆に独断で向こうに行ってしまったら、それこそ俺もココロもチームメートも傷付いていた。


だからこれでいい。


ヨウは俺の気を落ち着かせてくれる。

そして頃合いを見計らい、微苦笑漏らしながら俺に指摘した。


「なあ、ケイ。テメェは忘れているぞ。テメェもココロも俺達のチームだってこと。チームメートになんかあったら、そりゃチーム全体の問題。
チームってそういうもんだろ? これはテメェが俺に教えてくれたじゃねえか。第一謝る必要なくね?」

「ヨウ……」



「俺の勝ちだぜ、ケイ。やっぱりテメェは負けず嫌いだから簡単に屈しなかった。

信じた俺の勝ちだ。
どーせテメェのことだから、疑いを掛けられたらひとりでどうこうしようと思ったんだろうけど、そうは問屋が卸さないぜ。

ははっ、舎兄も舎弟をよく見ているだろ?
だあれが舎兄弟を白紙にするかよ。テメェは今もこれからも、荒川庸一ご自慢の舎弟だよ」


あどけない笑みを浮かべてくるヨウに、俺は謝罪をやめた。

代わりに「ありがとう」礼を口にする。

「ン」ヨウは俺の気持ちを受け取ってくれた。再度俺の肩に手を置いて戻ろうと声を掛けてくる。


「全員で助けるぞ」


そんな頼もしい一言を放って。

声音に怒気が纏っているのは仲間に手出しされたからだろう。


ココロは勿論、俺の苦悩に憤りを感じてくれている。


仲間思いの我等がリーダーは静かな怒りを胸に秘めつつ、それを表に出さず冷静に対処した。

チームの意味を理解した正真正銘のリーダーだからこそ冷静に状況を見ている舎兄が、やけに俺には眩しく見えた。