『ココロをお捜しなんでしょー? こっちで預かっているからご安心を』
くそッ、くそ! やっぱり嫌な予感は的中しちまった。
荒げたい声を必死に抑えて、「ココロは何処だ」低い声で唸る。
そんなに大事なのかと笑う古渡は「どうしようかなぁ」思わせ振りな口調で意味深に独り言。
余裕のない俺に、ココロをフルボッコさせてもいいなぁとほざく。
ああくそっ、怒るな俺。向こうの思うつぼだ。
クスクスと古渡の笑声が聞こえる。
次いで、
『彼女がそんなに大事? だったら解放してあげてもいいよ』
妙な提案を出された。
何だか妙にあっさりしているから怖い。こういうのって絶対にさ『ただし条件があるけど?』ほっらぁなぁ! 条件キタ――! 悪党ならば絶対もそういう条件を突きつけてくる!
こんの悪女!
どんな条件だと尋ねれば、かーんたんだと古渡は意気揚々と語る。俺は条件に目を点にする他なかった。だってその条件って。
『こっちの条件は一つよ、一つ。舎弟くんが根暗ココロと別れて、私と付き合うこと。どーお? 楽しい思いさせてあげるけど?』
は? 何言っているのこいつ。
俺みたいな地味君がお好み?
ンマー俺はあんたみたいな女は好みどころか土下座してお断りしたいんだけど。
『大事なんでしょ?』
人を嘲笑う笑みを漏らす古渡は俺とココロを交換する形で彼女を解放すると提案を出す。
古渡と付き合うだけで彼女を解放だなんて、絶対に上辺だけ。
本当は“荒川庸一”の舎弟である俺を利用したいのだろう。
それでも俺は迷う。
条件を呑んだら彼女は助かる。
ハジメのように彼女が病院送りにされるなんて絶対に嫌だ。
何だよこれ、めっちゃデジャヴなんだけど。利二の時と重なるんだけど。
利二を助ける代わりに日賀野の舎弟になれ、ヨウ達を裏切る形を取れと日賀野は要求した。
今度はココロを助ける代わりに古渡の恋人になれ、それはやっぱりヨウ達を裏切る形を取れと要求。
古渡は五十嵐と繋がっているそうじゃないか。
じゃあ必然的に俺は今のチームメートと対峙するわけで?
ははっ……二度あることは三度あるってか?
まさか俺の最も恐れていたことが、こんな形で姿を現すなんて。
ココロを選ぶか、それとも裏切りを取るか――そんなの、そんなのっ。
『どーする? 根暗ココロはアンタ次第で助かるけど?』
「約束を守るという保証は?」
『舎弟くん次第じゃないかなー? 今、そこで根暗ココロが怯えて半泣きなんだけど。代わる?』
古渡の声が遠退き、
『ケイさん……』
細い声が聞こえてきた。
「ココロ……」
俺は小さく名を紡いで、下唇を噛み締める。
ココロは今どんな状況下に置かれているんだ。
目に見えないから、こっちにはまったく分からない。
沢山の不良が目前にいるのか?
それとも古渡と二人きり?
酷いことはされていないか?
彼女と別れてココロを取るか、仲間達の信頼を取るか。
まんまあの時と一緒じゃないかっ!
……成長していないな。俺も、おれも、ほんと。
どっちを選ぶなんて決まり切っているじゃないか。
「少しだけの辛抱だからな。ココロ」
『……ケイさんっ。信じていますから』
「うん。ココロは弱くない。辛抱してくれな。すぐ行くから」
ほんとうに俺は成長していない。
再度古渡が電話に出ると俺は暫く会話を続けた。
電話を切って携帯を仕舞うと踵返して倉庫裏にあるチャリ置場に……おっとヨウが仁王立ちしてやんの。
俺がなかなか戻って来ないから様子を見に来たってところか。
会話の内容は聞いていないみたいだけど雰囲気で分かるんだろうな。
今の電話が何だったのかが。



