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「ばあば、ばあーば。昨日作ったクッキー。戸棚に仕舞ったけど食べていないよね?」


「食べていません食べていません。ちゃーんとココロがラップして、私達に念を押してうたじゃない。ほら、そこのお味噌取を取って」


早朝から台所に立っていたココロは祖母の朝食の手伝いをしつつ、余所でこっそりと昨晩作った焼き菓子をつまんでいるところだった。

何度も味を確かめているココロにおトキは微笑し、


「圭太さんにあげるの?」


おどけ口調で尋ねる。

赤面するココロは送ってくれたお礼をするのだと唇を尖らせ、祖母にも味見してもらう。


美味しいか、何度も味の感想を聞く孫に一々頷くおトキ。

可愛い孫のために文句一つ零さず相手にしてやる。


納得いくまで祖母に返事を貰ったホッと胸を撫で下ろすココロは、祖父の昭二にも食べてもらい、同じ感想を求めた。


こうして祖父母からお墨付きを貰ったココロは手早くラッピングして通学鞄の中に仕舞う。


が、割れてしまうかもしれないとわざわざ紙袋を用意し、そっちに入れ込む。携帯も紙袋に放り込んだ。



「美味しいと言ってもらえるといいけど」



ホクホクした気持ちで用意を整え、祖父母と朝食を取り、制服に着替えて行って来ます。 軽い足取りでココロは快晴の空の下を歩む。


燦々とした太陽の光がやけに眩しく、あったかくて心地良い。


気持ちが浮ついているのは、彼氏と充実した時間を過ごしたからだろう。


(沢山話せた……き、キスもした。夜は電話もした。昨日はラッキーな一日だったなぁ)


健気や良い子と言われるが、やはり自分も女。

彼氏とそういう軽い触れ合いをしたいはしたい。

不良達みたいなヤマシイところまではいかないが子供ながらの欲は持っている。


最近慌しい日々が続いて恋人らしいことができなかった分、昨日のやり取りは心満たされるもの。


今日は体調も万全だし(祖母が余計なことを彼氏の前で言ってくれたから恥は掻いたけれど!)、バッチリ薬も飲んだ。

大丈夫、今日は心配を掛けない。

迷惑も掛けない。

最後までチームと一緒にいられる。



チームは自分の大切な居場所だ。



彼氏は勿論、出逢ってくれた不良達は皆、自分の大切な人達。


いつか、皆で写真を撮りたいものだ。

他校に通っているから、全員が集まれる機会、そうはないけれど。


(あ、そうだ。たむろ場で今度、写真を撮らせてもらおうかな。皆の写真が欲しいし。思い出作り……したいな)


バス停までやって来たココロは、色褪せたベンチに腰掛け、紙袋に目を落とす。

彼に会えるのは放課後になるけれど、これを手渡す時が楽しみだ。美味しいと言ってくれたら、喜んでくれたら、とても嬉しい。


「楽しみだなぁ。早く放課後にならないかなぁ」


綻んでバスを待つ。

今日も好い天気になりそうだと胸を弾ませるココロは気付かない。背後に伸びる影に気付くことはなかった。