守りたい守ってやりたい。チーム一丸となって向こうチームを伸す。


そんな気持ちばかりを優先にして、舎弟の俺と彼女の距離を置き、ココロの気持ちを蔑ろにする。


それはきっと彼女に寂しい思いをさせるんだと思う。

逆の立場だったら絶対に寂しいと思う。


二人きりになれる時間、過ごせる時間も少ないしな。


うーん、他校同士で付き合うって難しい。

同じ学校だったら、もうちょい時間取れただろうに。


青のりおはぎを半分に和菓子フォークで裂いて、更に四つ切にしながら、俺はおトキおばあさんと昭二おじいさんに率直な感想を述べる。

ココロに対する率直な感想を。


「確かにココロはちょっと気持ち的に引っ込んでしまうところがあります。
でも誰より、人に優しくできる子です。差別なく平等に人に優しくできる、そんな彼女の面を見て俺はココロを好きになったんだと思います」


「安心じゃのう、ばあさん。こころにこんな彼氏さんができて」

「本当に。これからもこころを宜しくお願いね」

「はい」


俺は作業の手を止めて柔和に綻んだ。極々自然と出る笑みだった。


程なくして電話を終えたココロが戻って来る。

変なこと言ってないか、とオーラを醸し出すココロに、おトキおばあさんも昭二おじいさんも悪戯っ子のように笑う。


「こころの幼少の話をしていたのよ」


昔、畑に毛虫が出てビィビィ泣いたことを話した、なんておトキおばあさんがからかうものだから、「もう!」ココロはムッと脹れた。


まだおはぎも食べ終わっていないのに(嗚呼、青のりおはぎ! 超美味いのに!)、俺の腕を引っ張って「お部屋へ行きましょう」と強制連行。


俺の背中を押してズンズンとココロは自室に招いてくれる。

よっぽどおトキおばあさんや、昭二おじいさんにからかわれるのがヤだったんだろうな。


半ば強制的にココロの自室に入った俺はムーッとしている彼女に微苦笑すると、グルッと彼女の部屋を見渡した。


いや気になるじゃん?

初めて彼女の部屋に入ったんだし?


……別に疚しい気持ちで言っているわけじゃないぞ! ほんとだぞ! ほ、ほんとだからな! ちょ、ちょっぴりあるかもしれないけど。



ココロの部屋は俺の自室と同じ和室。


畳み部屋で敷布団で寝ているのか、部屋にベッドらしきものは見当たらない。

でも、あちらこちらにぬいぐるみは沢山置いてある。ぬいぐるみスキーさんみたいだ。


机や窓辺、棚、目に留まるところ留まるところにぬいぐるみが飾ってある。


「へえ、可愛い人形いっぱ……ココロ、この謎の宇宙人人形は?」


棚にクマ、ウサギ、ネズミにペンギン、可愛らしい人形が並ぶ中、なんともこの場に相応しくない人形一体。


目ん玉真っ黒の銀色宇宙人を手に取って俺は遠目を作った。


メルヘンを侵略するであろう宇宙人が何故此処に?

プチインデペンデンス・デイか?

それともこれは彼女のご趣味?


いやいや、ご趣味でも蔑視しない。しないぞ。ちょい戸惑うけどさ!


「あ、それはゲームセンターで初めてUFOキャッチャーで取れた子なんです。だから記念に」


それを部屋に飾るのもどーかとココロさん。


「なるほど。これまた奇抜な子を手に入れたな」 


宇宙人人形を指で小突いて机に移動する。  

整理整頓されている机の上には写真立てが場所を陣取っていた。


弥生と響子さんが映った写真がおさまっている。

三人で海に行った時の写真みたい。


みんな私服だ。


「初めての写真なんです」


隣に立ったココロが嬉しそうに語ってくれる。

記憶上、友達と遊んで写真を撮った思い出がココロにはないらしい。


集合写真はあるけれど、プライベートでの写真はそれが初めてだったと教えてくれる。


「それまで友達がいなかったですから」


ココロは自嘲をする。

だけどすぐに笑顔を零し、新しい写真立てを幾つか買っているのだと俺に教えてくれる。