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「田山圭太さん、良い名前ねぇ。歳はこころと一緒だそうだけれど。何でもお習字が得意だとか! おじいさん、丁度お葉書を出そうとしていましたし、圭太さんに宛て先を書いて頂きましょうか?」
「そうしてくれると助かりますのう。何せこの老いぼれ、筆ペンを持つと手が震えて震えて。頼まれてくれますか?」
五枚ほど書いて欲しいのだけれど、とココロのおじいさん。あ、ちげぇ昭二(しょうじ)おじいさん。
「じいじ!」
何を言っているのだと俺の隣に座っているココロが昭二おじいさんを咎めた。
いいじゃないか、おじいさんは気に素振りも見せず箪笥に向かう。
俺は今、ココロの家の居間にお邪魔させてもらっている。
長方形の短脚テーブルを挟んで、おはぎとお茶をごちそうになっているんだけど、いやはやココロのおじいさん、おばあさんはとても優しい。
二人はガッチガチに緊張している俺に愛想よく話し掛けてくれるし、自分達のことを昭二、おトキと呼んでくれるようお願いしてきた。
だから俺、友好を深めるために昭二おじいさん、おトキおばあさんと呼ばせて頂くことにした(じいじ、ばあばでも良いと言われたけど流石に……な?)。
二人も孫が増えたって喜んでくれたし。
……孫が増えたの意味は深く考えないようにするけど。
畳の香りで包まれている居間は大層居心地良く工夫をされている。
その香りを楽しみつつ、俺は昭二おじいさんから筆ペンと葉書、それから住所と名前の書いたメモを受け取った。
「すみません」
ココロが謝罪してくるけど、これくらいなんてことない。
おはぎとお茶を横に置くと筆ペンの蓋を取って、早速作業開始。
皆が見守る中、集中も集中して、努めて綺麗な字で書くようペンを走らせる。
習字、中二でやめたんだけど、まだそれなりに字は綺麗に書けるようだ。達筆を努めて、俺は五枚の葉書に各々宛名と宛先を書き上げていく。
だがしかし、ひとつ思う事がある。
これは一体全体何の苦行だろうか。
彼女宅で御家族に見守られながら、習字(硬筆)の腕前を披露するなんて。
手ぶら田山圭太、彼女宅で習字の腕前を披露するの巻。
次回は手ぶら田山圭太、彼女宅で談話するの巻だ。
来週もまた見てくださいね、ジャンケンポン、うふふふふふっ。的気分だぞ!
ちなみに今のは日曜の六時半からある国民的大家族アニメの次回予告フレーズなんだぜ! 次回もチクショウも現段階じゃないんだけどな!
あ、駄目だ駄目だ集中を切らすな。
習字は一刻一刻、一字一句が勝負なんだからな!
自称習字伝説を持つ、この田山圭太の名に懸けて、五枚の葉書は綺麗に書き上げてみせる!
「うわぁ、ケイさん。本当にお上手ですね。文字の大きさが均等です。こんなにも字、上手だったんですね」
「一応小学校低学年から中二まできっちりと習わされてたからな。少しは文字が綺麗じゃない、と。よし、終わり」
キュッと『様』という字を書き上げて、俺は筆ペンに蓋した。乾くのを待って昭二おじいさんに差し出す。
「このような感じで宜しいでしょうか?」
「すみませんな。ほぉ、お見事です。お若い男の子がこんなにも達筆に書かれるとは凄いですのう。よほど習字に力を入れてたんですのう」
結果を出さないと母さんが鬼角を見せたからな。



