半分くらい距離を詰めた頃、ココロの聞こえてくる息遣いに変化が表れた。



さっきよりも呼吸が荒削りになる。

一旦チャリを付近の駐車場にとめて、俺はココロを降ろす。


やっぱり立っていることがつらかったみたいで、ココロはその場にへなへなと座り込んでしまった。地

面に座り込み、重たそうな二酸化炭素を吐き出す。


「すみません、ケイさん。ちょっと立つのも……もうすぐしたら、お薬が効くと思いますんで」


モゴモゴと言うココロは効き始めたら自力で歩いて帰るからここで良い、と無理やり綻んできた。

勿論却下だぞココロ。俺がそんなに冷たそうな人間に見えるのか? 心外だっつーの。


「ちょっと待っててな」


俺は武器のチャリを駐車場隅に寄せる。

金網フェンスにチェーンを通して盗難防止をしっかり施すと、ココロの下に戻ってしゃがんだ。彼女に背中を向けて。


「え?」瞠目するココロに、「おんぶ」それくらいなら俺にでもできるからと一笑。早く乗るよう促す。


相手が躊躇いを見せると、


「不良に襲われでもしたらすぐ皆に連絡するよ。なるべく大通りを通るから安心しろって」


彼女に言って乗るよう催促。

そういう問題じゃないと苦笑いするココロだけど、具合が悪い方を優先したのかぎこちなく背に乗ってきた。


ズンッと背中に重みが乗ってくるけど、間違っても重いなんて単語は口にしない。しないんだぞ。


いや、そりゃヒト一人分が背中に乗ってくるんだ。

軽くはないけれど、平均よりは軽いと思うし、思いなんて言ったら二度と口利いてくれなさそう。


女の子は体重を気にするみたいだしな。口を利いてくれなかったら、そりゃ俺がへこむ! 一週間はへこみ続けるぞ!


しっかりとココロを背負った俺は立ち上がって、大通りに向かって歩き始めた。  


当初は裏道を使って家に送ってやろうと思ったけど、チャリから徒歩に変わった今、安全策として人目の多いところを通ることにする。


そしたら不良も襲い難いだろ?

ココロはともかく、俺はヨウの舎弟だから、悲しいことに顔を合わせただけで喧嘩を売られることがある。大半はヨウへの私怨なんだけどな! とばっちりの俺、可哀想!


ココロを背負って黙々道を歩く。

相手は喋る余裕も無さそうだから極力話し掛けず、右に左に真っ直ぐに道を進んでココロの家を目指した。


その内、ココロも薬が効いたのか幾分息遣いが落ち着く。


「すみません」


喋る余裕も出てきたらしい。彼女から声を掛けてきた。

「負ぶってもらっちゃって……重いでしょう? 怪我もまだ癒えてないのに」

「大丈夫だって。気にしないでくれな。具合の方はどう? ちょっとはマシになった?」


「はい。楽になってきました」


綻びを作るココロは、

「ちょっと恥ずかしいですね」

人の行き交う大通りを気にしながら、おんぶについての率直な感想を述べてきた。


まあ、それはしょうがない。

目立つかもしれないけど、不良に襲われるよりかは大通りを通った方がマシだろう。


そう言ってやると、


「早く終わるといいですね」


今の状況について彼女がポツリ。


日賀野達との対立も、俺等を狙ってくる五十嵐のことも、全部解決できたらいいのに。神妙に呟く。


「ケイさん……お友達さんとはあれから顔を合わせてないんですよね?」

「健太のことか? ……うん、まあな。同じ病院に入院していることは知っていたけど、会いに行かなかったしさ」  


五十嵐にすべてを持っていかれたけど、健太や日賀野達のことは何一つ解決できてない。それが心苦しかったりする。 

せっかく決着をつけようとしたのに、解決できないまま、両者負傷して終わるなんて。


向こうのチームは今、どうしているんだろう?


五十嵐の方に目を向けちまっているから、まったく動きを知らないんだけど。少なくとも今は俺達に対する敵意を隠しているみたい。奇襲等が一切ないから。