「送ってもらえって」



響子さんにも強く押されて、ついでに復帰したリーダー、副リーダーにも強く押されて、ココロは思案する素振りを見せた。

薬が効き始めたら大丈夫なんだけれど、と言う彼女。


いや、そうは言ってもさ、それまで具合が悪いんだろうし……此処たむろ場。とても危険だ。

奇襲をよく掛けられるんだからな。


いつかは戻ってくるであろうハジメのために、敢えてたむろ場を変えていないけど、居場所を五十嵐の回し者であろう不良達に突き止められているから、よく襲われる。

体調が悪いなら大人しく家に帰るのが自分のため、チームのためだと俺は思うよ。


「ケイに送ってもらえって。みーんなココロを心配しているんだぞ? 大丈夫、どっかの馬鹿リーダーみてぇに単独行動を起こしているわけじゃないんだし、な?」

「……おい響子」


「ふぁ~……そうだ。どっかの馬鹿リーダーは何も言わず……行動したんだから。奴はさほど心配しなかったが……ココロの体調不良は……とても心配だ」

「……悪かったな、シズ」


「そーだよ、ココロ! ヨウのバカチン行動に比べれば、ココロの早退なんてちっちゃなものだよ! 悪いことも何もしていないんだし! ゆっくり休んで、ね?」

「……弥生まで。リーダーの俺の立場、ちっさ」


向こうで溜息をついているヨウだけど、そりゃお前が周りを見ないで行動したのが悪いんだぞ。自業自得だ。


「言われやーんの!」


ワタルさんに指をさされてゲラゲラ笑われていることには同情するけどな。

仲間達の後押しもあり、ココロは帰宅する選択肢を取った。


皆に「お先に失礼します」律儀も律儀にわざわざ頭を下げて、前もって倉庫前にとめていた俺のチャリの後ろへ。


何だか覚束ない手つきで俺の肩を掴んで来るものだから、途中でチャリから落ちないだろうかと憂慮を抱いた。


俺のチャリには荷台置き場がねぇんだよな。新チャリも旧チャリもそうだから、ニケツする場合は後ろの方に立ってもらうのが原則なんだけど。


彼女の溜息に近い息遣いに、


「大丈夫か?」


俺は有り触れた言葉を掛ける。それしか言葉が思いつかない。


「ケイ、ココロを落とすなよ? 彼女が後ろに乗っているからって興奮すんな?」


まるで鬱憤を晴らすようにヨウに要らん注意をされ(心の俺「だぁああっ、興奮ってなんぞやもし?!」)、それを引き攣り笑いで流した俺はココロを乗せてチャリを発進。


再三再四、響子さんに「よろしく頼むな」と言われつつ、ゆっくりとチャリのペダルを漕ぎ始めた。 


なるべく振動を起こさないよう慎重にペダルを踏むけど、やっぱココロにはニケツが辛いらしい。痛みに対する呻き声やら吐息やらが聞こえてくる。


そんなココロに申し訳ないと思いつつ、


「家どこら辺?」


俺は道を尋ねた。


ココロの家は知らないんだ。

たむろ場から西方面というのは知っているけど具体的な場所を聞いたことはなかった。


苦痛に耐えつつ、ココロはあっちだと指差す。

うん、ココロ、そっちは自販機だな。行き止まりだぞ。


俺のチャリはETじゃないから、自販機越えてお空を飛ぶは無理だからな! ……マジで大丈夫かよ。立ち続けるのもシンドそうだぞ。


どうにかココロに二丁目の沼池がある住宅街だと聞いて、俺はそこに向かってチャリを漕ぎ始める。


普段は学校までバス通らしい。

学校からたむろ場では、同じ学校に通っている響子さんやシズと徒歩で向かうみたいだけど、たむろ場からココロの家がある近所まではちょい距離があるな。


遠くまでチャリを漕ぐ分は苦じゃないんだけど、チャリの後ろで直立の体勢を保つココロには苦痛なこと極まりないに違いない。


なるべく揺らさないよう、でもスピーディーにチャリを漕ぐ。