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「ケイ、ちょっと頼みがあるんだ。ココロを家まで送ってくれねぇか?」


「え? ココロをですか? 響子さん」



それは舎兄弟喧嘩から十日ちょい過ぎ、メンバーの怪我もそこそこ完治に向かっているある日のこと。


いつものように倉庫内でたむろっていた俺達は集会に一区切りを迎えているところだった



けれど集会に区切りがつくや否や響子さんが俺の下にやって来て、片手を出しながらチャリで送ってやって欲しいと頼んできた。


しかも何だか浮かない顔をして。


そりゃ一向に構わないけど……もしかしてココロの具合でも悪いのか? ……病院? 病院系か?!


「ココロに何かあったんですか?」


内心軽くプチパニックに陥りつつ、俺はココロに何かあったのかと響子さんに質問を投げる。


すると響子さんが俺の心配に対して「ちょっとアレでアレなんだ」苦笑いを零す。

目を泳がせ、決まり悪そうに弥生に視線を投げた。


「うん、アレなんだよねアレ」


立てない動けない歩けないのだと言うのだけれど俺にはなんのこっちゃ。


アレアレアレで通じるほど俺もエスパーじゃないぞ。


アレアレ病か? オレオレ詐欺ならぬ。

もうちっと俺に分かるように説明してくれないかな! 女子の皆さん!


目を点にして首を傾げる俺に、いいから送ってくれと響子さんに怒られた。怒鳴られた。頭叩かれた。


なんで叩かれるよ?!

俺、ワルイコトしたか?!


いや寧ろ、送ると頷いているんだから感謝されるべき立場にいるんじゃ……なんでぇ?!


「ケイ! 送るのか送らないのか! さっさと返事しろ!」 

「そ、そんなに怒らなくても……お、送りますよ! 彼女の具合が悪いんだ。送りますとも。でも原因ぐらい教えてくれたって!」


すると焦れたように弥生が俺の耳を引っ張って(アイデデデ!)、ボソッと原因を教えてくれた。


一瞬の沈黙。


原因が分かった俺は「アー」と相槌、頬を掻いた。

とんだ失態を犯した気分なんだけど……ははっ、アー……あーあ……何だか聞いちゃいけなかったような気がしたのは、俺が男だからだろうか?


とにもかくにも原因を聞いてッアー、気まずい!

どう反応すりゃいいんだよ、それを聞いた俺って!

あっらぁ、そうですか。そりゃ大変でごぜーますね、なんて安易に言えるわけねぇだろ!


「そういうことだから。OK? さっき薬は飲んだみたいだけど、気分的に宜しくないんデスヨ? 家で休んで貰いたいんデスヨ? オーケイ?」

「OKデス。弥生サン。とにかく具合が悪いんデスネ。とつても悪いんデスネ?」


「そっ、具合が悪いの。ココロ。ぐ・あ・い・が・ね!」


お、女の子って大変だよな! お、男で良かったとすこぶる思う。

マジ女って大変だ。歩けないこともあるんだなぁ。ココロは重い方なんだそうな……うん。男の俺にはよくわかんねぇけど。


「馬鹿ケイのKY、察しなさいよ」


弥生に文句を言われたけど、ついでに背中思い切り叩かれたけど、男兄弟しかいない俺が知るわけないでしょーよ! そんな女性事情!


おりゃあ心身男だぞいベラボウチクショウ!




さて、何故ココロが具合が悪いかは心中で察して欲しいとして(口に出来るかよ!)、俺は具合悪そうにしているココロに声を掛けて送る旨を伝える。


具合が悪いなら布団に入って寝ていた方がいいだろう。

寝て治るかどうか怪しいところだけど……いや俺じゃ一生経験できないことですし?

憶測しかできませんけど。経験できたら俺は何者だよ!

確実に男じゃないってことだけは言える!


取り敢えず、歩けそうにないココロにチャリに乗れそうかと聞く。

壁に凭れて座っているココロが首を横に振り、この期に及んで送ってもらうことに遠慮を見せた。


「悪いですから」


ううっと呻き、脂汗も滲ませながら、大丈夫だと気丈に笑ってくる。


だけど、ちっとも大丈夫そうじゃない。

こりゃ早く送ってやった方が良さそうだ。


「ココロ、無理は駄目だぞ。体調を万全にしておくのもチームのためだって」

「でも。めーわくに」


寧ろ、途中で倒れられた方が迷惑なんだけど。

俺は千里眼の持ち主じゃないからな。

道の途中で倒れられても、連絡してもらわない限り気付くことは不可能なんだぜ! ……それに彼女が心配じゃんか。なあ?