そうあれは、俺とケイが目を覚ました翌日のこと。


目を覚ましたと知った女子組が見舞いに来た時、真っ先にココロはお前の姿見て泣いただろうが。



目が覚めて良かったと大号泣……まあ、あれは心配ゆえにだと思って目を瞑ってやらんこともねぇが、それからだそれから。



ありゃ確か、弥生と一緒に見舞いに来たココロが俺達のために林檎を剥いてくれている時のことだ。




ココロは俺達のベッド挟んで林檎を剥いていた。


俺と弥生は他愛もない会話を交わしていたが、テメェ等はその時……目で会話していただろうが。


だまーってケイはココロの作業を見守って、これまたココロもだまーって林檎を剥いて、視線かち合って一笑。


何にも言わずまただまーって見守る、剥く、一笑、エンドレスエンドレス。


それが終わったら、ココロが俺とテメェに林檎を渡すわけだ。

各々林檎を取って食すわけだが、なんでかテメェ等はまだ黙って互いの反応をチラチラ。


丁度弥生が手洗いに行くもんだから、俺は完全にぼっちなわけで。


なーんか口も出せず、取り敢えず空気を読んで二人の様子を見ていたら、やっと二人が口を開いて。



『なあ』

『あの』



見事にハモって軽く赤面、お先にどうぞの譲り合い。


同室の俺をスルーして沈黙を作った挙句、テメェは『ありがとう』、ココロは『どういたしまして』、また沈黙。桃色の沈黙。恋人の沈黙っつーのか? あれ。


林檎が妙に甘いと思っている俺を余所に、テメェ等は視線を合わせては外して合わせては外して、ココロが『早く元気になって下さいね』柔和に笑顔。


『おう、努力するよ』テメェも満面の笑顔。



『絶対ですからね』

『うん、絶対な。ちゃんと元気になるから』



笑声を漏らして、仄かな桃色ラブラブオーラを病室に振り撒きやがった。

どこの純情青春ドラマを観ているんだ俺、なんて思ったぞ、あの時は。

カワイソーなぼっちの俺は取り敢えず、弥生の帰りを今か今かと待っていたという……。