◇ ◇ ◇



血みどろの土曜決戦から大敗、入院に退院、次いでリーダーの身勝手騒動。

この数週間に色んなことがあった俺達だけど、大半は解決を迎えた。

五十嵐や日賀野達のことは置いておいて、取り敢えず目前の問題は解決した。


大半、な。


一つだけすぐにでも片付けられる問題が解決していない。


そう、俺とヨウの舎兄弟喧嘩だ。


事実上、俺達は喧嘩をしたまま継続という形で日々を過ごしている。

俺の計画ではその日に仲直りをするつもりだったのだけれど、ヨウと二人きりで喋る機会を逃し、なあなあとなって今に至る。


仲間を交えて会話する時も俺とヨウの間にはぎこちなさがあり、巻き添えを食らったチームメートは困った表情を作っていた。


俺的には普通に接しているつもりなのだけれど、ヨウの方が消極的な態度だ。人の顔を見ては決まり悪そうに頬を掻いている。


そらあヨウの拳を食らったせいで頬に青痣ができ、湿布を貼らなければいけない事態になったことについては思うことがあるけれど、怒りは不思議と抱かない。


ただただ気持ちは落ち着いている。

ヨウに殴られて怒りを覚えないわけではないのだけれど、それさえどうでもいいような気持ちに駆られていた。


これについて責める予定はない。

仲間内からはその態度が不自然だと指摘を受けてしまったのだけれど、本当に怒っていないよ。呆れてもいない。失望しているわけでもない。


じゃあ俺はヨウにどんな気持ちを寄せているのか。

決まり悪いと言れたら、そうかもしんない。


だけど俺はそれ以上に、きっと。



なんとなく気まずさがしこりとして残っている日々を過ごして四日目。


ついに俺はヨウと二人きりになる時間を得る。


それはたむろ場解散後のこと。

軽い集会のみで終わったその日は、俺の気分がとても乗っていた。

五十嵐達のことを考えるとまっすぐ帰った方が良いのだけれど、少しは寄り道をして気晴らしをしたい。何か飯でも食って帰ろうか。


そんな思いから密かに寄り道を決行。

徒歩で帰る仲間達と別れた後、チャリを押しながら何処へ行こうか思考を巡らせていた。


すると仲間と共に帰った筈のヨウが俺の後を追い、ぎこちなく隣に並んで途中まで良いかと声を掛けてくる。


遠慮がちに聞くヨウに一笑し、俺はいいよと返事をする。夕方のことだった。


何かを食べたい俺の足は必然的に大通りと向かった。

そっちは帰路じゃないとヨウは知りつつ、俺と足並みを揃えて歩く。

会話は弾まないどころか飛び交うことすらなかった。

何か話題はないものか。


さすがに沈黙はつらい。

無言は調子乗りにとって天敵だ。


思考を巡らせて足を動かしているとヨウの足が止まる。



「ケイ」



名前を呼ばれることで俺の足も止まる。

顧みれば、きっと謝罪会見が開かれるのだろう。

雰囲気を察してしまう。


なら余計に振り返ることはしたくない。


俺はヨウに謝って欲しいわけじゃないんだ。


同じように俺はヨウに吐いた暴言に謝罪する気はない。


通り過ぎる通行人を脇目にした後、


「行くぞヨウ」


チャリを押して歩みを再開。

出鼻を挫かれて困惑しているであろう舎兄に言葉を重ねる。


「気分はラーメンだ。俺はラーメンを食べたい。炒飯とセットがいいか。いや、ここはやっぱり餃子……迷うな」


まだ立ち止まっているであろう舎兄にようやく振り向き、「何しているんだよ」早く来いと催促する。


いつもヨウが俺に思いつくまま案を出し、当たり前のように二人で行動する前提で話すように、今の俺も思いつくまま案を出し、当たり前のように二人で行動する前提で話を進める。


たまには俺が振り回したっていいだろう? それくらいは許される筈だ。


「駅前のラーメン屋でいいよな?」


満面の笑顔でヨウに聞くと、呆けていた舎兄が見る見る頬を崩して片手を挙げた。


「俺は餃子を推すぜ。やっぱラーメンには餃子だろうが」


小走りで俺の隣に立つやヨウは人の体を押しのけて、ハンドルを奪うように握ると乗るよう親指で後ろを指す。


今日はヨウが運転手を買って出てくれるらしい。

喜んで後ろに乗った俺はヨウの両肩を掴む。