これで良かったんだろうヨウ。
お前のことだから、こうでもしないと……こうでもしないと……チームメートをちゃんと見てくれない。
俺が口で言ったとしても、きっと繰り返すだけだから。
お前、好い奴だから、仲間思いだから……でも思い過ぎるから、自力で気付いて欲しいんだ。
ヨウが好きな仲間はお前が思っているほど、弱くないことを。
だけど恐かった。超恐かった。
天下の荒川庸一に、俺の舎兄に真っ向から喧嘩を売ったんだから。
殴られたことよりも、あんな風に白眼視をされる方が恐かった。
あいつとは特別仲が良いからこそ、ああいう眼は堪えるんだ。
ほんと恐かった、恐かったよ。
正真正銘、初めての舎兄弟喧嘩だった。
ポンッ。
その場に座り込んで身震いしている俺の頭に何かが乗った。
おずおず顔を上げれば、「お疲れさん」煙草をふかしているワタルさんの姿。
オレンジの長髪を微風に靡かせて快晴の空を仰いでいる。
こっそり俺達のやり取りを見てたみたいだ。デガバメかよ、悪趣味な。
「ケイちゃんって大根役者だねぇ。ベタベタな演技だったよんさま。でも、熱意は伝わってきた」
「……ワタルさん。間違っていないですよね? 俺」
「少なくとも、僕ちゃーんの目にはねんころり。ヨウちゃんの背中を預かっているケイちゃんは、いつだってヨウちゃんのことを想っているんだねぇ。
これで気付かないなら、僕ちんがやってあげるってぇ。ケイちゃんより喧嘩はできるし」
それだけの言葉が貰えれば十分だ。
「ありがとうございます」
俺は殴られた頬を擦って、しきりに苦笑いを繰り返した。
恐かったけどワタルさんが間違いではないと言ってくれたから、救われた気がしたよ。
だまっていつまでも傍にいてくれるワタルさんの優しさが沁みて、ちょっぴり涙を誘ったけど必死に我慢した。
いいじゃんかな?
俺、カッコつけなんだし……これくらいカッコつけてもさ。
俺は荒川庸一の舎弟。
ヤなことも買って出ないといけない貧乏くじ野郎なんだ。



