それからの俺達はとにかく行動を起こした。
まず五十嵐のことを知らなかった奴等は、その五十嵐という男の詳細を説明してもらう。
曰く、五十嵐はヨウ達が中学時代に伸した高校生グループのリーダーだった男。
先方に喰らった不意打ち作戦は、どーやらヨウ達が中学時代にやった戦法らしい。
中学時代仲間がこっ酷くやられたから、仕返しに『漁夫の利』作戦を決行した。
その経緯でヨウと日賀野が対立したみたいだ。
とにもかくにも五十嵐は凄く評判の悪い男だったみたいだ。
気に食わない奴は片っ端から苛め倒し、地味っこいヤツは奴隷のようにパシっていたとか!
不良の中の不良とは五十嵐を指すんだと思う。
だから敵対している日賀野はまだ仲間思いで救いがあると感じた。
俺のトラウマには違いないんだけどな!
だってシニカルに笑って俺を散々苛め(中略)、運命の赤い糸とかほざき(中略)、フルボッコにされ(中略)、つまりトラウマなんだよドチクショウ!
弥生と利二の調査によると、ヨウ達に大敗した五十嵐は近年また力をつけてきたようだ。
輩は三つ上で、現在大学一年生。
つるんでいる面子は評判の悪い不良さんばっかりで集団行動大好き。
頭を使う事がお得意だそうな。
怪我を負っている上に少数の荒川チームにとっては不利も不利な相手。
そこんところは浅倉さん達を頼るしかなさそうだ。
何が何でも勝ちたいから俺達は先日大敗した当時の状況を探り、五十嵐の情報を掻き集めていた。
俺は喧嘩ができない男だけど、今回のことは超絶に悔しかった。
日賀野達と決着をつけて終わりを求めていた筈なのに、こんな大敗を味わったら、やっぱり何か仕返しはしたくなるもんだ。なあ?
しかも向こうは俺達を執拗に狙っているみたいだ。
間接的にだけど五十嵐の回し者(=ヨウ達に私怨がある不良)が、よく俺達に喧嘩を吹っ掛けてくるようになった。
弱っているところを仕留めろ、みたいな?
度々たむろ場を襲撃されたけど、俺達は絶対にたむろ場を変えようとはしなかった。
だって変えたら、抜けているヨウやハジメの帰る場所が分からなくなるだろう?
だから絶対に変えてやらないんだ。
怪我をしていても、重傷を負っていても、弱っていても何しても、帰る場所は変えてやらない。
でもまあ……本調子でもないんで。
「アイタタタっ! 朝からワタルちゃん死亡のお知らせっぽ。死にそう」
「だ、大丈夫ですか? ははっ、俺もチャリを漕ぐだけで死にそうでした」
輩と喧嘩をした翌日は体に響いてひびいて地獄を見ている。
今もそう。
ギリギリ登校をしてきた俺はワタルさんとばったり鉢合わせたんだけど、階段を目の前にお互い引き攣り笑い。
段がのぼれないくらい体が悲鳴を上げている。
脂汗を滲ませながら顔をチラ見してまた一つ引き攣った笑声を零す。
「階段……四階でシンドイんだけど……僕ちゃーん」
「俺なんて一限目体育ですよ……昨日は人数が多かったですからね。普段ならなんてこともない不良達相手に苦戦の悪戦でしたね」
「ほーんとほーんと。はぁーあ、健康ってありがためんたいこ」
「どーかんです」
重い溜息をついて、俺とワタルさんはしゃがみ込むと長い階段を見上げた。
一段いちだんが三メートルの壁に見えて仕方が無いんだけど。
嗚呼、のぼらないと遅刻になるけど、もういいや。ちょっとくらい遅れても。学校に来るだけでもシンドかったんだ。少し休憩を此処で「何しているんだ、テメェ等?」



