目を点にした俺はたっぷり間を置き、自分を指さして確認を取る。
シズはうんっと頷く。
俺が推したかった響子さんやワタルさんを見やれば、満面の笑顔で首を縦に振った。
その他諸々仲間達にも視線を向けるけど、同じように頷くばかり。
じょ、冗談だろう?!
「おぉおおおれぇ?! いやいやいや、なんで俺なの! ワタルさんや響子さんの方が適任でしょーよ! シズおかしいぞ。選ぶ基準間違っているぞ! もっとチームを思って決めてくれよ!」
「思った結果……ケイで全員一致だ」
なんなのどうしてなのグルなの皆?!
俺の知らないところで話し合いでもした?!
「喧嘩できないんだけど。弱いよ? 取り柄は習字と自転車くらいしかないよ!」
「だが……今回の目的変更と……不在リーダーの考えを見抜いたのはケイ、お前だ。大丈夫、ヨウを……傍で見ているだけあって、纏め方も上手くなっている。やれるさ……」
舎弟でお腹いっぱいなのにっ! まさかのチーム副リーダー!
前触れもなしに学級委員に任命された気分なんだけど。
引き攣り笑いを浮かべる俺に、
「ヨウが戻るまでだ……」
やってくれとシズが微笑して肩に手を置いてきた。逃げ道を塞がれた。
く、く、くそう。
やっぱヨウには自力じゃなくて他力で気付いてもらおうかな。
俺がちゃっちゃかとチクって気付かせちゃうおうかな。
お前のせいで、俺はチームの副リーダーに任命されちまったじゃないか!
どーしてくれるんだよ!
ワタルさんやタコ沢に俺が不良を指示する立場?!
……ないぜマジで。
額に手を当てていると「自信を持てよ」モトが素っ気無く、そして力強く背中を叩いてきた。
「オレ、今のアンタなら適任だと思う。ヨウさんの舎弟してきたんだからな!
……それにオレ、今のヨウさんはちょっと慕えない。チームの意味を見失っているヨウさんが、仮にその状態で此処に戻ってきても、オレはシズやケイについて行くと思う」
「モト……」
「すっげぇ辛いけど、今のヨウさんより……シズやアンタの方がリーダーに向いてる。あのままのヨウさんじゃ、オレ……ついて行けない」
モト、お前……本当にヨウを慕っているんだな。
中防は下唇を噛み締めて、信じていることを俺に吐いた。
ちゃんとヨウが目が覚めてチームに復帰してくれることを自分は信じている。
ただ不安がないわけじゃない。
モトは嘆きを口にし、大きく項垂れたと思ったら、前面に凭れた。
俺はその体を受け止めて、「大丈夫だって」モトの気を落ち着かせてやる。
「ヨウがお前を置いて、チームを去るわけ無いだろ。あいつが目を覚ましたら、お前の慕っているヨウに戻っているから。舎弟の俺が保証する。ヨウは戻って来るさ」
ほんとうにモトは兄分思いだよ。
こんなにもヨウを慕って、あいつは幸せ者極まりない。
早く気付けよ、ヨウ。
お前の考えている行動は独り善がり、仲間にとって嬉しくも何もない行動なんだって。
寧ろ心配をさせているんだよ。
メーワクはいいけど、心配はさせるな、そう俺に教えてくれたじゃないか。
兄貴。ハジメが抜けて、次にお前が一時離脱とか……ほんと俺との約束、破ってくれちゃって。ド阿呆のコンチクショウ。
「ヨウが……戻ってくるまで……一度たりとも負けない……」
シズが右の手の甲を俺達に見せてきた。
「まーた青春クサイコトすんのぉ?」
ワタルさんはケラケラ笑って、一番乗りにその手を重ねた。
その上に響子さんが、ココロが、ハジメ分まで手を重ねる弥生が、嫌々タコ沢が、キヨタが、利二が、そして俺は落ち込んでいるモトの頭を小突いて重ねようと綻ぶ。
まずはモトが右の手を、俺が左の手、最後にモトがもう一度、誰かさんの分の左手を重ねて全員分完了。
「打倒五十嵐……もう負けない……これから巻き返しだ……いくぞ!」
全員は声音を張って決意を固める。
本来のリーダー不在だから、いつも以上に気張らないと。
今回の大敗は個々人じゃなく、俺等チームの大敗。
荒川チームの名に恥じないよう行動しよう。負けはもう、許されないぞ。



