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それから一週間経った頃。
入院組は無事に退院を迎え、学校にも元気よく……というわけじゃないけど、学校に通える程度までに体は回復することができた。
幸いな事に入院中は日賀野チームと一度も顔を合わせずに済む。
向こうの動きは気にはなるけれど今、両者が顔を合わせても喧嘩、もしくは口論になっていただろうから。
健太のことが気がかりに思いつつも、顔を合わせなくて安心したというのが俺の本音だったりする。
さて退院した俺がクラスに顔を出すと予想していなかったハプニングが起きる。
なんとクラスメートから敬遠という洗礼を受けたのだ!
露骨に避けられることはなかったけれど、なんとなく距離を置かれているのだと察してしまう。
どうやら俺の入院した理由が“喧嘩”だということを皆知っているみたいだ。
地味くんのクセに不良の喧嘩に参戦しているとか、目を付けられたくないとか、そういう意味合いの眼を飛ばされて内心ちょっとだけショック。
何だよぉもう。
ここは喧嘩から生還してきた可愛そうな俺に、友愛とお帰りの意味を込めての「おはよう!」じゃないのかよ。
クラスメートに優しくない奴等だなぁ。
俺のガラスハートになぁ、ヒビ入ってもいいのかぁ?! 皆残酷よ!
けれど、その中でも数少ない爽やかな挨拶を交わしてくれたのはジミニャーノ達。
薄情も何もなく、いつもどおり「おはよう」、次いで「大丈夫?」、極め付けに「退院おめでとう」と言葉を贈られた。
チクショウ、泣けたんだぜ!
優しさがガラスハートに沁みた。利二、透、光喜……お前等なぁ、俺なんかを泣かせちまって。
これ以上お前等をどう愛せばいいか、俺にも分かんないんだぜ!
俺は三人の優しさに軽く泣いた。
心でも面でも泣いたさ!
ああ泣いたさ!
友情は何よりも傷の特効薬なんだぞ! お前等三人とも愛しているからな!
こんなアッタカイ話がある一方、学校に出て来られた俺に待っていたのは学年主任と担任の地獄のお説教ターイム。
どーやら教師達にも喧嘩騒動のことがばれていたようだ。
停学処分まではならなかったけど、厳重注意ということで放課後、喧嘩に関わった連中と生徒指導室で散々説教を受けた(主に入院組。入院を免れたタコ沢は一足先早く受けたらしい)。
解放される頃には六時を過ぎていた。
「ありえないって……あの説教の長さ」
げっそりのウンザリして生徒指導室に出た俺は一緒に思い切り説教を受けたワタルさん、ヨウに目を向ける。
二人ともケロッとしているもんだから凄い。
説教慣れしているようだ。
俺なんて喝破される度にビクついていたってのに……その肝を少し分けて欲しいくらいだぜ。
「んじゃ、俺は行くかな」
ヨウは学校に通えるようになると、俺達とあんまり行動を共にしなくなった。単独行動ばかりしている。
今も説教が終わると、さっさと背を向けて帰っちまう。
ぐるぐると思案をめぐらせているのは一目瞭然。
俺等と距離を置いているのも以下同文。
馬鹿な事をしようとしているのも以下同文。
リーダーを一旦シズに譲ったヨウは、なるべく一人でいようと努めている。今日の昼休みも体育館裏には顔を出さなかった。
だけど俺達を心配していることも知っている。
「完治するまで喧嘩は控えろよ」
血の気の多いワタルさんに言葉を掛けていた。
だがしかし、である。
残された俺とワタルさんはアイコンタクトを取り、にやにやっと笑い合う。顔は悪代官そのものだろう。
「さあて問題です、ワタルさん。俺達はこれから何をするでしょうか?」
「アンサー。ヨウちゃんの怒るようなことろろこんぶ!」
ピンポンです。
ウケケッ! ヨウのバーカ! おとなしくする俺達じゃねーぞ!
イケメンくんにばれないよう、ちゃんとあいつが正門を出たことを確認して俺はワタルさんとたむろ場へ走る。



