その日の昼過ぎ。
起床した俺とヨウの下に見舞い客がやって来た。
チームメートの弥生達だ。それに辛うじて入院を免れたシズやモトも一緒……ゲッ、病室で療養中のワタルさんやキヨタもいるじゃんかよ。
チームの大半が集結したってことか? ははっ、煩くなりそう!
でもワタルさんは病室を移動なんかして大丈夫なのかな? いっちゃんの重傷者と聞いているんだけど。
「ケイさーん! お労しいっス!」
右腕にギブスをつけているキヨタは、俺を見るや否や会いたかったと両手を挙げて駆け寄って来る。
ばっ、バカバカバカッ! 抱きついてくるな! 駆け寄っても来るな!
俺もお前も重傷者、体が痛アデデデデデ! ギブッ、ギブだってキヨタ!
抱きつかれて身悶えている俺を余所に、
「ヨウさんぅうう!」
次いでモトもヨウに同じことを、
「だぁあ! モト、テメッ、いってぇえんだよ!」
やっぱり俺と同じようにヨウは痛がっていた。
身悶えていた。離れるよう頼み込んでいた。
ですよね、痛いっすよね。
過度までに慕われるのも問題ですよね。
ついでに病室っすよね、此処。
静かにしないと看護師さんに怒られますよね、はい。
そんな身悶え舎兄弟を余所に、シズはヨウのベッドサイドに置いてあったスツールに腰掛けて腕を組む。
「ヨウ」
険しい顔を作るシズは、開口一番に土曜の決戦の話を切り出してきた。
それは俺達チームにとって腫れ物話題なんだけど、構わずシズは重々しく口を開く。
「今回の事件は『漁夫の利』作戦に似ているんだが……首謀者はどうやら五十嵐竜也らしいしな」
弥生の根性情報収集のおかげで、チーム全体に五十嵐って名前が知れ渡る。
良かった。
俺は口止めされていたから、情報を早く入手して欲しいと思っていたところなんだ。
でも『漁夫の利』作戦ってなんだ?
首を傾げる俺と同じような反応をするのは、キヨタ、ココロ、弥生。全員高校からヨウのグループ(もしくはチーム)に関わり始めた面子。
他の奴等は『漁夫の利』作戦を知っているらしく、単語を聞いた瞬間顔色を変えた。
まさか、そんな、あいつが、みたいな顔をしている。
でもヨウだけは無言を貫き通していた。
その内、「負けたんだよ」と苦言。
俺達は五十嵐に負けた、『漁夫の利』作戦で、としかめっ面を作る。
次いで俺等にこう告げる。
今回は素直に敗北を認めよう、と。
どんな形であれ負けは負け、怪我も負ったし病院送りにもされた。負けを認めざるを得ない、と苦言苦笑苦悶している。
そして。
「全員、暫くは体を休めてくれ。五十嵐のことはどーしょーもねぇ。奴のことは追々考えるとして、完治したらまずヤマト達の決着だ。奴等との決着、一から練り直そう」
え、俺は目を丸くしてしまう。五十嵐はどうでもいいのかよ。
「ああそれとシズ、頼みがあるんだが……チームを暫くテメェに任せたい」
「は……? お前、何を言って」
混乱に混乱をしてしまう。
なんでシズにチームを任せたい、なんて言うんだ? ヨウは何がしたいんだ?
「少しだけ考えてぇんだ。悪い。今の俺じゃリーダーも何もできねぇんだ。俺の気持ちが混乱している……そのままリーダーを継続すれば、チームをもっと混乱させる。
暫くの間、副のお前にチームを託してぇ。大丈夫、ちゃんと戻って来るから」
そう付け足すけれどヨウ、それってつまり間接的にチームを離脱するのか? 途中リタイアしないって言ってたくせに?
こんの嘘吐きバカチタレ!
俺との約束どーするんだよ!
約束を破ったらなぁ、針千本と拳万なんだぞ!
ただヨウにはどうしても考える時間が必要そうだ。
顔を見りゃ分かる。
仕方がなしに俺はヨウを信じることにした。
すぐに戻ってくるという、その言葉を(だけど何故か嫌な予感が拭えなかった)。
チームメートはリーダの決断に目を白黒。
特にモトはショックを受けているみたいだったけど、副のシズは「それがリーダーの願いなら」真摯にリーダーの気持ちを汲み取って一時的にチームを受け持つと承諾。
戻ってこなかったら承知しない、そう補足して。
「サンキュ」
ヨウだけは助かると綻んでいた。
その綻び方が、とてつもなくヤーな予感を誘ってさそって。
この瞬間、俺はヨウと同室になったことに心苦しさを覚えていた。
チームメートが撤収すると、余計心苦しさを覚えておぼえて。
寧ろ、俺、ちょいヨウの判断に納得いかないからカーテンを閉め切って、むすーっと亀布団、極め付けに不貞寝。
舎兄が呼び掛けても、勇気を振り絞って無視。完全に不貞腐れモードに入っていた。



