閑話休題。
入院をしている間、俺達の下に見舞い客が何人もやって来てくれた。
それは勿論かろうじて入院を免れた仲間もそうだし、浅倉さん達も見舞いに来てくれた。
利二を含むジミニャーノ組も見舞いに来てくれたし、ヨウと知り合いであろう先輩不良方(ははっ、俺は狸寝入りをしていたんだぜ)も見舞いに来てくれた。
皆の気持ちは嬉しかった反面、入院生活はとても窮屈で退屈だ。
フルボッコされた体だから行動範囲も限られている。
ベッドの上で本を読む気にもなれず、勉強なんてとんでもない。
テレビを観ようにもお金がいるし、ゲームをしたくとも機器は手元にない。
だから必然と俺は隣の舎兄と日夜駄弁るしか時間潰しができなかった。
今もそう、駄弁って時間を潰している。
冒頭でお馬鹿会話をしていたのも、俺とヨウが手持ち無沙汰だからだ。
「ふぁー……ねっむ。でも今寝ると夜眠れねぇし、かと言ってやることもねぇ。暇だなぁ。こうやってジーッとするだけって」
小さく欠伸を噛み締めるヨウは暇だとぼやいた。
まったくもってそのとおりだと、俺も欠伸を一つ零す。
欠伸が感染ったじゃんかよ、ヨウのバッキャロ。
さほど眠くもない筈なのに頭を使わずにいると不思議と眠気が襲ってくる。
でも眠りに達するまでじゃない。
あーあ、暇だ。暇は人を駄目にする。
使っていない脳みそが眠気によって溶けてしまいそう。
ふと俺は眠気を嚥下して、ゆっくりとした動作で舎兄に流し目。否、視線を固定。
「なあ……」
それまで触れぬよう努力していた話題を、思い切って出すことにした。
あんま思い出したくないけど、先に疑念が浮かんで。
「ヨウ……あのさ。あの日の土曜のことなんだけどお前、あの乱入者知っているんじゃ」
「悪い、ケイ。やっぱ眠くなったから少し寝るわ」
サーッと仕切りの桃色カーテンを閉めて、「おやすみ」能天気な声でご挨拶をされてしまう。
ヨウは俺の話を聞くどころか、あの日の土曜という単語を聞いただけで逃げちまった。
「ヨウ」
俺が呼び掛けても反応ナシ。応答ナシ。返事ナシ。
静寂だけが病室を包み込む。
うーん、そりゃ俺もショックだったけど……ヨウも話から逃げ出すほどショックだったのかな、大敗したこと。第三の乱入者は薄らボンヤリの記憶だけど、ヨウは知っているようだったみたいだし。
普段だったらすぐにでも嫌でも喧嘩の話題を出して話してくれるのに、この話題に限っては何も話してくれない。
それだけショックだったのかもしんないけど、心当たりがあるのなら俺達チームを襲ってくれた相手くらい教えてくれもいいじゃんか。なあ?
浅倉さん達に事を尋ねても襲ってきた相手は既にいなかったらしいし、響子さん達も逃げることに手いっぱいで不良達のことは分からずじまいだそうだし、弥生や利二の情報網も今しばらく情報収集に時間が掛かると言っていた。
なら一番の情報源は五十嵐という男と一緒にいたヨウに聞くのが早いんだろうけど、こいつ「五十嵐の名前は仲間内に言うな」なんて口止めをしてくるんだぜ?
余計気になるじゃんかよ。
まさかこのまま流すんじゃないだろうな。
今回の事件のこと。お前らしくもねぇぞ。
いつかはチームに教えてくれるんだろうな?
小さな吐息をついて一眠りすることにした。
今はどーあっても俺と会話してくれなさそうだ。
話し相手もいなくなったし、寝るしかやることがない。
あんまり眠くない瞼を閉じて再度吐息をつく。
あいつ等、何者だったんだろう――?



